いつも感じ良さそうに振る舞えるミス・「正義」が羨ましいよ。俺もあんなふうにできたらなぁ……彼女の軽やかな挨拶を聞き、青銅の長テーブルの上座に端座しているクラインは思わずため息を漏らした。
しかし、相手がいともあっさり1000ポンドもの現金を取り出したことをすぐに思い出し、自分が彼女のように常に感じ良さそうに振る舞うのは非常に難しいだろうと想像した。
「太陽」であるデリック・バーグは自分の評判を気にしてばかりいる青年で、すぐさま答えた。
「『読心者』の処方箋はもう手に入れました。」
彼は最近、両親の残した遺産を整理し、家や家具、いくつかの思い出の品以外で価値のある物はすべて白銀の都の「闇市」に持っていき、それらと引き換えに「読心者」の処方箋と「賛美する者」のポーションの材料を手に入れ、今は配給だけで暮らしている。
しかし、いつまでもそんな状況が続くことないだろうと信じている、戦闘審査に合格したら周囲の「暗黒の怪物」を殲滅する部隊に入隊して、高額報酬を得るつもりでいる。
そして、本当に強くなったら精鋭小隊に志願して闇の深部を探索し、解呪の方法を見つけるんだ……デリックはそんな希望を抱きつつ、濃い灰色の霧の中の「愚者」に顔を向けた。
彼は前回、ミス・「正義」がミスター・「愚者」に指示を仰ぐと、なぜかロッセールの日記とかいうものが現れることに気づいていた。
彼はそれがどういう事なのかは分かっていなかったが、ミスター・「愚者」を見ているほうが良さそうだと感じていた。
「まず頭の中で処方箋を思い浮かべ、それから手元にあるペンを取って、表現したい気持ちを強く込めるんだ。」クラインはそう言ってゆったりと椅子の背にもたれる。
「太陽」は「神に見捨てられし地」とおぼしき白銀の都から来ているため、その面前で具現化されたのはペンではなく、羽根ペンであった。
当然ながら相変わらずインクはない。
デリックは愚者の言葉を疑おうともせず、急に手元に現れた羽根ペンを握りしめた。
言われたとおりにやってみると、数秒後には黄褐色の羊皮紙に「読心者」ポーションの処方箋が記されていた。
デリックは二度確認した後、約束の品をミス・「正義」に無言で差し出した。