第64章 欲しいものは何でもくれるの?

人々が一斉に振り向くと、そこには長身の姿がさりげなく立っていた。少女は可憐な顔立ちで、アーモンド形の瞳を少し伏せ、まるで眠たそうに元気がないようだった。

しかし、人々に傲慢な印象を与えていた。

彼女は白い指をポケットに入れ、紙に包まれた黒っぽい薬丸を取り出した。簡素な白い包装紙を破ると、二本の指でそれを挟み、目を上げて高岡さんを見た。「莫愁丸です。本物なんですよ」

高岡さんは彼女を見て瞳孔が収縮した。少女の顔立ちは渡辺詩乃(わたなべ しの)にあまりにも似ていて、彼を恍惚とさせた。まるで当時、あの若い少女が自分の前に立ち、得意げに言ったかのようだった。「莫愁丸、私が作り出しましたわ!」

群衆の中から誰かが叫んだ。「福山先生、見てください!あれは莫愁丸ですか?」

福山先生は業界で有名な漢方医だった。彼はその言葉を聞いて一歩前に出て、少女の手からその薬丸を取り、少し欠けた部分を鼻に近づけて慎重に嗅いだ。