第63章 莫愁丸は渡辺家のもの！

「何？」

　　数人が驚いた。

　　福山副院長はもちろん、渡辺昭洋、渡辺由佳、石丸和久までもが聞き間違えたのではないかと思った。周りは人々の声で騒がしく、みんな基本的に莫愁丸のことを議論していたからだ。

　　福山副院長が一番先に我に返った。「何て言った？冗談でしょう？」

　　石丸和久はまるで何かを理解したかのように、小声で口を開いた。「凛奈、あなたは莫愁丸の処方を持っているの？わかったわ、お母さんが残したものね？！」

　　彼女は夫から莫愁丸が昔、姉が開発したものだと聞いた記憶があった！

　　寺田凛奈はうなずいた。「うん、もう光春従姉妹に渡したわ。おそらくこの2、3日で大量生産に入れると思う。」

　　この言葉が落ちれば、みんな興奮するだろうと思っていた。

　　しかし渡辺昭洋は顎を引き締めて、何も言わなかった。

　　渡辺由佳は眉をきつく寄せた。「完成品がまだ出ていないのに、外で勝手なことを言わないで。若いくせに、やっぱり靠れないわね。全然落ち着きがない！」

　　寺田凛奈の目が冷たくなった。

　　この叔母の敵意は大きすぎるんじゃないか？

　　そう思った矢先、渡辺昭洋が声を低めて言った。「凛奈、当時お母さんが莫愁丸を作ったのも、偶然が重なって一度に5粒しか成功しなかったんだ。製造方法が複雑で、成功率が極めて低い。これも当時莫愁丸が普及しなかった理由なんだ。たとえ処方があっても、大量生産は難しいと思う……」

　　福山副院長は渡辺昭洋と渡辺由佳の表情が悪いのを見て、すぐに嘲笑うように言った。「ふん、高岡さんが莫愁丸を持っているのを見て、あなたたちも欲しくなったの？もし莫愁丸が誰でも作れるものなら、高岡さんはそれを1粒だけ店の看板薬にはしないでしょう！」

　　遠くからまた高らかな笑い声が聞こえてきた。皆が見ると、高岡さんと寺田真治が一緒に出てくるところだった。

　　高岡さんは大笑いした後、リラックスした表情で言った。「寺田さん、それではこの件はこれで決まりですね！」

　　寺田真治の表情には少し物悲しさが見えた。今の話し合いがあまりうまくいかなかったようだ。彼はうなずいて、すぐに興味を失ったように脇に寄り、この交流会に対して興味を失っているように見えた。