寺田真治はこっそりと席を立ち、大きな注目を集めることはなかった。彼はもともと匿名で来ていたのだから。
しかし、会場では寺田凛奈のこのレースが大きな反響を呼んでいた。
藤本凜人と寺田凛奈がレーシングカーから連れ立って現れ、レース場を出るやいなや、渡辺光祐たちが迎えに来た。光祐の友人がすぐに口を開いた。「ねえ姉さん、あなた一体誰なの?こんなに凄いなんて!あのスピード、あの角度、あの目の付け所、まさに天才だよ!」
寺田凛奈は何も言わず、視線を渡辺光祐に向けた。普段は高慢で、彼女を見るといつも冷たい目つきをしていた少年の目に、今は熱い光が宿っているのが見えた。
彼はまだ黙っていて、口数は少なかったが、態度は明らかに変化していた。
彼女のことを認識したのだろうか?