寺田凛奈は自然と目を向け、虫がついた蘭の鉢植えが隅に捨てられているのを見た。その蘭はまだ鉢に入ったままで、明らかに誰かに捨てられたものだった。
そしてこの鉢植え……
寺田凛奈は眉をひそめた。昨日、ウェブページで誰かが自分に助けを求めていた、まさにあの蘭の鉢だった!
二人が近づくと、木田柚凪が身を屈めて蘭の鉢を抱き上げ、注意深く観察した。「この花、結構きれいじゃない?」
もちろんきれいだ。
この花は一目見ただけで長年大切に育てられたことがわかる、稀少な存在だった。
ただ虫がついてしまって、もったいない。
でも、その持ち主もあまりにも冷たすぎる。返事もせずに花を捨ててしまうなんて?
しかし瞬時に、寺田凛奈は理解した。
この種の花の虫は感染性があり、もし花室に置いたままで他の花と一緒にしておけば、他の花まで台無しにしてしまう恐れがある。
残念だ。
木田柚凪はその鉢を持ちながら言った。「ちょうど新居に花がないから、これで飾ってみようかな。ただ、この小さな虫をどうやって処理すればいいのかしら?」
木田柚凪はすでに別荘を購入しており、今日は彼女を連れてきて見せるためだった。
寺田凛奈は少し考えてから、彼女が気に入ったのなら縁だと思い、思い切って口を開いた。「私がやりましょう。」
木田柚凪はうなずいた。
二人は歩き続け、別荘区の半分ほどを回った。木田柚凪の長い脚はまだ歩いているが、口では文句を言っていた。「この別荘区も広すぎるわ。知っていれば車で入ってきたのに。散歩させてあげるなんて言わなければよかった。」
寺田凛奈は彼女の言葉に反応しなかった。
二人は歩き続け、木田柚凪が薄く汗をかくまで歩き、ようやく10号別荘の前に到着した。木田柚凪は指紋で鍵を開け、言った。「この別荘に住んでいる人のほとんどは芸術関係の人たちよ。でも家を買うとき、前の所有者が言ってたわ。9号別荘の人には関わらないほうがいいって。」
寺田凛奈は眉を上げた。「どうして?」
木田柚凪は説明した。「すごく気まぐれな中年女性で、かなりの身分の持ち主らしいわ。周りにたくさんの護衛が隠れているらしいのよ!」