第340章 彼は寺田喜助なのか?

寺田凛奈の声は低くかすれていたが、澄んでいた。特に、現場にいた大勢の人々の中で、彼女の言葉は皆の耳に届いた。

  すべての家政婦たちは互いに顔を見合わせ、最後には黙って頭を下げた。

  寺田雅美の顔色が一瞬にして真っ赤になった。彼女は寺田凛奈がこんなに直接的な言葉を言うとは思っていなかったが、心の準備ができていたので、すぐに口を開いた。「凛奈、私がこんなにうるさいのは分かっているわ。あなたは嫌になったでしょう。でも寺田家の人間として、やっていいことと悪いことがあるのよ!あなたは老いぼれを人間扱いしないわけにはいかないわ!彼は今、あなたの治療で全く目覚めないじゃない。本当に命に関わることになったら、あなたが責任を取るの?」

  寺田凛奈は彼女を見つめて言った。「ええ、私が責任を取ります。」

  「……」

  寺田雅美は彼女の言葉に詰まった。

  医者でさえ、このような言葉は言えないはずなのに、寺田凛奈は言ってしまった。

  彼女は深呼吸をして言った。「凛奈、あなた……」

  しかし寺田凛奈は彼女の言葉をこれ以上聞かずに、直接部屋に入り、ドアをバタンと閉めて、彼女と外の騒がしさを遮断した。

  寺田雅美は彼女のこの態度に、非常に不快な思いをした。

  三原耀子が彼女の後ろに立ち、怒って口を開いた。「お嬢様、あの子のことなんか放っておけばいいんです!本当に何かあったら、彼女がどう説明するか見ものですよ!」

  寺田雅美は深呼吸をして、偽善的に言った。「三原さん、私は彼女のことを心配しているんじゃないわ。お父様のことを心配しているのよ!結局、老いぼれはお父様が直接家に住まわせたんだから。それに他の人は知らないかもしれないけど、あなたは知っているでしょう。お父様は時々老いぼれを見舞いに行くの。まるで古い友人を訪ねるように……」

  三原耀子は眉をひそめた。「そうですね。私たちは皆、老いぼれを家族のように扱っていますが、まさか誰かがこんなに冷酷で、人を実験台にするなんて思いもよりませんでした!」

  寺田雅美はため息をついた。「そうね。だから私はずっと老いぼれの安全を心配していたの……」

  二人はこのような会話をしながら、書斎に入った。