周囲の警官たちは即座に寺田凛奈の方を見た。彼女を取り押さえようとした瞬間、藤本凜人の落ち着いた声が聞こえた。「石山、もし彼女を止めようとするなら、容赦しないぞ」
石山博義は顎を引き締めた。
彼は動かず、依然としてその場に立っている寺田凛奈を見つめ、瞳には深い思考の色が浮かんでいた。
しばらくして、ようやくゆっくりと口を開いた。「彼女を行かせろ」
この言葉とともに、周りの全員が道を開けた。
寺田凛奈は拳を握りしめた。
彼女は、藤本凜人が自分のためにこんなことをするとは想像もしていなかった。
石山を人質にとるなんて、重罪だ!
彼女から見れば、藤本凜人との関係は、二人の子供がいるという絆だけだった!
寺田凛奈はそれ以上考えるのをやめ、頭を振って決然と外へ向かった。
一歩進むごとに速度が増し、最後には走って飛び出していった。
石山博義は彼女を見つめ、目には濃い怒りが浮かんでいた。彼は冷笑して言った。「藤本さん、あなたは自分が何をしているのかわかっているのか?」
藤本凜人はゆっくりと答えた。「わかっている」
「ここから病院まで、スポーツカーでないと30分以内に到着できないことを知っているのか?」
藤本凜人は続けて言った。「知っている」
石山博義は冷笑した。「藤本さん、本当に彼女が無罪だと確信しているのか?しかも病院に行くと?彼女が逃げてしまって、あなたが一生刑務所暮らしになるかもしれないと心配しないのか?!」
藤本凜人は眉を上げた。「私は彼女を信じている」
この4つの言葉に、石山博義は一瞬躊躇した。
しばらくして、石山博義は目を伏せた。「知っていますか?私の母も昔、同じことを言ったことがあります」
藤本凜人は少し驚いた。
石山博義は淡々と言った。「25年前、渡辺詩乃が殺人事件の容疑をかけられた時、彼女は患者の治療のためと嘘をついて母を騙し、母が彼女を釈放した後、結果はどうなったと思う?」
藤本凜人は眉をひそめた。
石山博義はゆっくりと続けた。「彼女は逃げた。そして母は責任を追及され、今では引退している。母がそんな目に遭ったのに、寺田凛奈のために私を襲撃したあなたは、どうなると思う?」