第391章 彼女の誕生日

頬に残る柔らかな唇の温もりがまだ感じられた。

木田柚凪は自分の頬に触れながら、目の前の小さくて臆病そうな真由美を見つめ、ふと胸の奥に感覚が湧き上がった。自分の子供が自分にキスをする時も、こんな感じなのだろうか?

彼女はしばらくの間、言葉を失っていた。

真由美は柚凪が黙り込んでいるのを見て、怯えてしまい、慌てて目を潤ませながら答えた。「先生、怒ってますか?」

木田柚凪は自分が怒るべきかどうか分からなかった。

むしろ、真由美にダンスを教えること自体が間違いだったのではないかと思った!

彼女と寺田真治の子供は行方不明になった。

なのに、ここで寺田真治の子供にダンスを教えている。しかも、その子が自分にキスをした時、押しのけもせずに、まるで受け入れたかのように。

自分がこんなことをしていいはずがない!

木田柚凪は元々彼女の足を伸ばしていたが、突然立ち上がり、冷たく言おうとした。「これからはキスしちゃダメよ」

しかし、真由美の丸い目と尖った小さな顔を見た瞬間、その言葉は口から出てこなくなった。むしろ、口に出た言葉は「怒ってないわ」だった。

寺田真由美は頷いた。「じゃあ、嬉しいですか?」

木田柚凪は嬉しくないと言おうとしたが、真由美の期待に満ちた目を見て、思わず「嬉しいわ」と言ってしまった。

「嬉しい」という言葉に、寺田真由美の目は一瞬で輝いた。

彼女は恐る恐る口を開いた。「先生、お母さんは勝手にキスしちゃいけないって言ってて、体が触れ合うのも嫌がるから、先生も嫌がると思ったの。先生がキスしたいって言ったから、私、先生にキスしたの。本当に嫌じゃないの?」

お母さんが触れ合うのを嫌がる?

木田柚凪は少し戸惑った。

他のお母さんがどうかは分からないけど、もし自分の娘だったら、きっとキスし足りないくらいだろう。それに、外で見かける多くの子供とお母さんの関係はとても親密だ。

まさか、寺田真由美のような小さな子が、そんなに可哀想な思いをしているなんて。

そう思うと、彼女は口を開いた。「本当に嬉しいわ。嘘じゃないわ。先生は子供たちと親密に接するのが好きなの」

「それじゃ、すごく良かった!」