リムジンの中。
助手の倉田健祐が運転しながら、バックミラーを通して自分の上司を見て、なんとなく彼が可哀想に思えた。
あの有名な藤本凜人が、いつこんなふうに門前払いされたことがあっただろうか?
彼は密かにため息をついた。
寺田さんと付き合い始めてから、藤本社長は本当に彼の知る限り最も忍耐強い一面を見せていた。
そして今、藤本社長は急いでいる様子もなく、まだスマホをいじっていた。
彼はもう我慢できずに引き返したくなっていた。
こうして外で待っているなんて、恥ずかしい限りだ!
彼には知る由もなかったが、この時藤本凜人は寺田凛奈のメールボックスにハッキングしようとしていたのだ。
彼の長い指がスマホの画面を器用に操作し、寺田凛奈のメールボックスに侵入しそうになったところで、突然失敗し、画面が真っ暗になりそうになった。