倉田幸歩は組織内で悪名高き女悪魔として知られていた。
しかし彼女の医術は優れており、皆も彼女を怒らせることはなかった。
だが理不尽に叱責された職員は、今回我慢できずに直接言い返した。「本当にそうですね。」
倉田幸歩は一瞬驚いた後、冷笑した。「へぇ?じゃあ言ってみなさい。その人は誰なの?福山部長より優秀だというなら、私が医学界にいる長年の間に、なぜそんな人物の噂を聞いたことがないのかしら?」
職員は咳払いをして、寺田凛奈の方を見た。
おそらく石山博義の調査チームに加わり、外部スタッフとなり、さらに石山博義が特別に身分証明書を発行してくれたためか……寺田凛奈はこれらの職員に対して好感を抱いていた。
結局のところ、彼らは彼女の同僚となったのだ。
自分の同僚がこれほど困っているのを見て、寺田凛奈がそのまま立ち去るわけにはいかなかった。
彼女は眉を上げて倉田幸歩を見つめ、突然口を開いた。「はじめまして。私は医師のAntiです。私のような人物をご存じないのは、おそらく私があまりにも無名だからでしょう。」
この言葉を聞いて、倉田幸歩は明らかに困惑した。
そして倉田幸歩の後ろにいた数人の看護師たちは、すぐに口を押さえ、驚きの表情で彼女を見つめ、次々と叫んだ。
「Anti?」
「まさか、生きているAntiに会えるなんて!」
「Antiは国際的な第一聖手よ。福山部長が国内最高の外科医なら、Antiは国際的に最高の外科医ね。福山部長よりも優秀よ!」
「彼女は私の憧れの人なの!」
「……」
看護師たちがひそひそと話している間、寺田凛奈は倉田幸歩が眉をきつく寄せているのに気づいた。彼女はこの名前を聞いて少し驚いたようだったが、それは顔をつぶされた後の恥ずかしさのようなもので、すぐに落ち着きを取り戻した。
そして倉田幸歩は、この件についてこれ以上言及せず、職員たちの方を向いて叱責を続けた。「秋田七恵が国際的な第一聖手を見つけたとしても、あなたたちが勝手に人を中に入れてはいけないのよ!」