その人は顔を上げずに、直接薬を堀口泉弥の手に置いた。「これを飲めば、出られるぞ」
これを飲む?
堀口泉弥は唇を噛みしめ、その白い錠剤を見つめた。「これは何の薬なんですか?」
「知る必要はない。ただ、これを飲めば出られるということだけ知っておけばいい」
その人は同じことを繰り返して言うと、すぐに立ち去った。堀口泉弥だけがその場に残され、手の中の薬を見つめていた。
飲むべきか、飲まざるべきか?
彼女は突然拳を握りしめ、遠ざかっていくその人の背中を見つめた。
二人が出会った経緯や、この間の彼女の変化を思い返してみると...堀口泉弥は突然決心し、周りの人が気づかないうちに薬を飲み込んだ。
この一錠の薬が彼女にどんな結果をもたらすか、知る由もなかった。
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「何だって?堀口泉弥が突然病気になった?」
寺田家で、木田柚凪がこの電話を受けたとき、少し理解できなかった。これは裁判所からの電話だった。結局のところ、堀口泉弥は彼女の娘を誘拐した犯人だ。今、釈放されて病院に送られて治療を受けているので、彼女に知らせる必要があった。
木田柚凪は眉をひそめた。「具体的にはどんな病気なの?」
相手は事務的に答えた。「木田さん、堀口泉弥の病状はまだ病院で検査中ですが、かなり深刻な様子です。心臓病のようで、ずっと昏睡状態が続いています」
「わかりました」
木田柚凪は電話を切ると、戸惑いながら寺田凛奈に話しかけた。「堀口泉弥はずっと健康だったはずよ。毎年の健康診断でも問題なかったのに、どうして突然心臓病になったのかしら?」
寺田凛奈は眉を寄せた。彼女は突然口を開いた。「じゃあ、病院に見に行ってみない?」
木田柚凪は思わず尋ねた。「嘘だと疑ってるの?」
刑務所から出られるのは、病人だけだ。
寺田凛奈はうなずいた。時計を見て、ちょうど今なら時間があると判断し、立ち上がった。「行きましょう。私も一緒に行くわ」
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堀口泉弥は中で既に医者の診察を受けていたが、医者も手の施しようがなく、市立第一病院に送られてきたところだった。
木田柚凪が運転し、寺田凛奈を連れて病院に到着した。二人はゆっくりと上の階へ向かった。
寺田凛奈は足を引きずるように歩き、まるで足が進まないかのようだった。目線を少し下げ、全身から世界の中心は自分だという雰囲気を漂わせていた。