階下の暗い隅に、かすかな光が差し込んでいた。黒いスーツを着た男が、自分より半頭分低い女性を壁との間に押し付けていた。彼は片手で彼女の頬を押さえ、もう片方の手で彼女の腰を抱いていた。まるで彼女をそこに閉じ込めているように見えたが、実際には寺田凛奈の体は壁から少し離れていた。これは藤本凜人が彼女を冷たい壁から守るためだった……
男の大きな手は熱く、夏の薄い服を通して、彼女の腰を焦がすようだった。
凛奈は反射的に彼を押しのけようとしたが、唇は彼に塞がれてしまった。
男の唇は冷たくて柔らかく、ゼリーのようだった。凛奈の唇に触れた瞬間、彼女はその場で固まってしまった。
彼女は驚いて目を見開き、目の前の男の顔を見つめた。
その瞳は黒く深く、その中には熱い愛情が溶け込んでいた。目尻のほくろは薄暗い光の中で、より魅惑的に見えた。
通った鼻筋、そして近くで見ても毛穴一つ見えないような肌に、凛奈は抵抗する気持ちが全く湧かなかった。
京都の空はいつも曇っていて、今も月が空に浮かんでいたが、二人の姿を見て恥ずかしくなったかのように、雲の中に隠れてしまった。
「ドクドク、ドクドク……」
激しい心臓の鼓動が、二人の胸を通して伝わってきた。凛奈は最初、自分の心臓だと思っていたが、突然それが藤本凜人の心臓の音だと気づいた……
しかしその鼓動には魅力的な力があり、彼女は手の動きを止めてしまった。それに加えて、普段より少し荒い男の息遣いに、凛奈の頬が徐々に熱くなっていった。
思わず唾を飲み込んだ。
そして、額に冷たいものが触れた。男が彼女の額に自分の額をつけたのだ。唇から離れ、彼の声はかすれていた。「凛奈、会いたかった。」
凛奈はまばたきをした。
さっき電話でも同じ言葉を言っていたはずなのに、今、耳元で響くその言葉は、まるで細い電流のように、耳から心臓へとじわじわと伝わっていった。
彼女は再び唾を飲み込んだ。
彼女の仕草に気づいたのか、男は突然低く笑った。
凛奈は頬を赤らめ、何を笑っているのかと聞こうとした瞬間、唇が再び男に塞がれた。今度は先ほどとは違い、試すように口を開いて……
男特有の清々しい香りが、バニラの香りと共に口腔に侵入してきて、まるで彼女の空気を全て奪おうとするかのようだった……