二人は車に乗って出発したばかりのようで、今は呼吸音と車の走行音しか聞こえず、しばらくの間二人とも黙っていた。
寺田凛奈は盗聴しながら上階を見上げると、木田柚凪が自分の髪を押さえながら、不安そうに心配している様子が見えた。
寺田凛奈は周りを見回して尋ねた。「お兄さんは?」
「お父さんが一体何をしたのか確認しに行ったわ」木田柚凪は茫然と顔を上げ、寺田凛奈を見つめながら困惑した様子で尋ねた。「凛奈、私のお父さんって...本当に悪い人なの?」
寺田凛奈はそれを聞いて顎を引き締め、木田柚凪を見つめながらため息をついた。「この世界には、いわゆる悪人も善人もいないわ...純粋な黒と白もないの...」
子供の頃、彼女は悪を憎んでいた。
でも成長するにつれて、接する物事が増えていき、様々な立場で多くの人々と関わるようになって、ようやく分かってきた。