第579章 相馬さんを目覚めさせる

寺田凛奈は彼女の手を軽く叩いた。「先に帰りなさい。ここのことは私が処理するから」

木田柚凪は自分が残っても役に立たないことを知っていた。むしろ、相馬歩人たちがムヘカルを追い詰めるための口実になりかねないと思い、頷いて立ち去った。

寺田凛奈はようやく特殊部門に入った。彼女はホールの様子を見ることなく、尋問室へと向かった。

すでに誰かが救急車を呼んでおり、医師が駆けつけて、尋問室で相馬さんの目を診察していた。医師は眉をひそめた。「これは、たとえ搬送しても無駄でしょう」

「そうですね。こめかみを貫通していて、すでに脳死状態と言えます。蘇生の必要はありません」

特殊部門の法医学者もため息をついた。「私も必要ないと思います」

彼らの言葉を受けて、寺田凛奈は目を伏せながら口を開いた。「あなたたちは気にしなくていい。ただ病院に搬送してください。私の医療チームが相馬さんの治療を引き継ぎます」

駆けつけた医師は少し驚いて彼女を見た。「あなたは?」

「私はAntiです」

寺田凛奈が身分証を見せると、医師たちはすぐに頷いた。「わかりました」

彼らは担架を持ち上げ、相馬さんを乗せた。しかし、ドアを出たところで、ホールにいた人々に止められた。

ホールには特殊部門の大勢の人々が集まっており、一見したところ百人以上はいるようだった。

この時、皆が興奮状態で、相馬歩人を慰める者もいれば、倉田隊長の後ろに立って石山博義と対峙している者もいた。

相馬歩人は拳を握りしめ、体を震わせながら言った。「石山さん、犯人はここにいるのに、父は尋問室で横たわっているのに、まだ彼をかばうつもりですか?なぜ今すぐ判決を下さないんですか!」

倉田隊長も口を開いた。「石山博義、お前は一体なぜ彼をかばうんだ?彼は犯罪者だ!人殺しだ!寺田凛奈と親密な関係だからって、かばうのか?今や人証物証も揃い、弾道検査の結果もある。証拠は十分だ。なぜすぐに有罪にしない!」

本来なら、有罪判決は裁判所の仕事だ。

しかし特殊部門は特別な存在で、調査案件の複雑さゆえに、あらゆる部門から独立している。

そのため、特殊部門にはムヘカルを裁く完全な権限がある。