第578話 残るか去るか?

寺田凛奈のその言葉に、皆が一斉に彼女の方を見た。

石山博義は目を細め、倉田隊長を一瞥したが、その目には何の驚きも見られなかった。彼は心の中でこいつは老狐だと嘆きながら、寺田凛奈の方を向いて尋ねた。「相馬さんは死んでないのか?」

「今、心拍が戻りました」

寺田凛奈は口を開いた。「でも、こめかみを撃たれて、現在重度の昏睡状態です……」

倉田隊長はそれを聞いて、深い瞳に思索の色を浮かべながらも、表面的には興奮した様子を見せた。「なんだって?相馬さんは本当に死んでないのか?それは良かった!重度の昏睡状態か、この症状は治るのか?」

寺田凛奈は頷いた。「もちろん、私には彼を目覚めさせる方法があります!」

「それは良かった!」

倉田隊長は感極まって目を赤くした。「相馬さんは優秀な警察官だ。もし彼がこのまま死んでしまったら、全て私の責任だ!」

この偽りの会話を聞きながら、寺田凛奈は倉田隊長を見つめ続けた。

元々、彼女は倉田隊長を頭の回転が遅く、衝動的な性格だと思っていたが、この瞬間、自分が見誤っていたことに気付いた!

倉田隊長は特殊部門に入ってから、ずっと外向的で怒りっぽい性格を演じ、彼女への嫌悪も表面に出していた。

それで彼女は警戒を緩め、倉田隊長が本当にそういう人物だと思い込んでいた。

今回のムヘカル殺人事件が起きるまで、寺田凛奈はようやく気付いた。この倉田隊長は本当に老獪な狐だったのだ!

もし本当に粗暴な人間なら、倉田隊長がどうして人を殺し、ムヘカルに罪を着せ、しかもすべてをこんなにも自然に見せることができただろうか?

この5年間の付き合いを通じて、寺田凛奈はムヘカルをより信頼するようになっていた。

ムヘカルは何も語っていないにもかかわらず、彼女は事件の経緯を想像することができた。

倉田隊長が発砲し、ムヘカルが銃を奪い、その後二人とも発砲した。だから弾道分析の結果が出たのだが、ムヘカルが持っていた銃には、絶対に倉田隊長の指紋は残っていないはずだ!

倉田隊長は細心の注意を払い、一切の証拠を残さないようにしたのだ。

そして……

相馬さんのこめかみを一発で貫通した銃弾、その狙いの正確さも、すべて事前に計算されていたはずだ。