寺田凛奈が疑っていたのは彼女だった!
彼女は目を細めて、口を開いた。「私は黒猫を疑ったことはない」
入江冬月はようやく頷いた。「そうですね。それなら尋問することもないでしょう。柊花、もし本当に彼女を連れて行かせないというのなら、それでも構いません。今ここで、あなたの前でいくつか質問させていただきます。それくらいはいいでしょう?」
藤本柊花は寺田凛奈の方を見た。
寺田凛奈は外にいる全員を見つめた。
彼女にはわかっていた。あの連中はおろか、自分自身でさえ自分を疑うだろうということを。
母親が神秘組織のメンバーだった——たとえそうでなくても、現時点で確実なのは、彼女が神秘組織と何らかの関係があるということだ!
そして自分は不可解な行動をとっているため、この連中は完全には信用してくれないだろう。
彼女は直接頷いた。「聞いてください」
入江冬月は、かつて掲示板で黒猫の尋問方法に問題があると言い切った人物だけあって、尋問には確かに手慣れていた。問題の核心を突いてきた。「寺田さん、お母様についての記憶はありますか?」
寺田凛奈は依然として藤本柊花のソファに座ったまま、威厳のある姿勢で、冷たい声でゆっくりと答えた。「生後六ヶ月の赤ん坊に記憶があるのなら、私にも記憶があったかもしれません」
渡辺詩乃は彼女が生まれて数ヶ月後に亡くなった。記憶があるはずがない。
入江冬月は直接次の質問を投げかけた。「では、彼女はあなたに何か残していきましたか?」
録音を残していった。
寺田凛奈は目を伏せたまま、この録音の内容を彼らに知られたくなかった。
それに、その録音の中には、この事件に関係するものは何もないと確信していた。
彼女は入江冬月を直視して答えた。「ありますが、この事件とは無関係です」
入江冬月の声は一気に厳しくなった。「寺田さん、私たちの捜査に協力してください!事件に関係があるかないかは、私たちが確認してからでないと判断できません。お母様があなたに残したものは何で、どこにあるのか教えてください」
寺田凛奈は彼女をじっと見つめた。
入江冬月も怯むことなく、彼女を見返した。
寺田凛奈は目を伏せた。
彼女は突然思い出した。当時、臼井家が彼女の妊娠後でさえ臼井真広との結婚を進めようとしたのは、母親が残した何かを手に入れるためだったのだろうか?