第608章 人質を取る

藤本凜人は全くこの女を相手にする気がなかった。

しかし、入江冬月が突然そのような衝撃的な言葉を口にしたため、彼は眉をひそめた。

最近、彼はあの夜のことを何度か夢に見ていた。

夢の中で、彼は冷たい機械に何かを盗まれたのではなく、ある女性と関係を持っていたのだ！そのため、彼は年を取って春の夢を見ているのだと思っていた。

しかし入江冬月がその言葉を叫んだとき、彼は眉間にしわを寄せた。

なぜか、この瞬間、5年前、彼は確かに女性と関係を持っていたのであって、いわゆる精子を採取されたのではないということを、はっきりと思い出した！

この認識に、彼は突然緊張し、心臓が締め付けられるような感覚になり、無意識に寺田凛奈の方を見た。

彼の最初の反応は、寺田凛奈が怒るのではないかということだった。

二番目の反応は——もしその相手が入江冬月だったとしたら、吐き気がするほど気持ち悪く、最悪だということだった！

しかし記憶の中では、あの夜、自分は拒絶していなかったようだ……

この考えは、まるでハエを飲み込んだかのように、自分の体が自分を裏切ったように感じさせた……

彼が混乱して考えているとき、入江冬月を追い払おうとしていたボディーガードたちはその場で立ち止まった。入江冬月の言葉から察するに、彼女は藤本社長と関係があったということなのか？

このまま前に出て追い払うべきか、それとも引き下がるべきか？

皆が困惑して藤本凜人の方を見たが、あいにく、この時彼らのボスは寺田凛奈をじっと見つめたまま、彼らには一瞥もくれず、どうしたらいいのか分からなくなってしまった！

前に出て連れ去るべきか、それとも急いで退くべきか？

社長、指示を出してくださいよ、ここで昼ドラみたいな展開を見たくないんですけど！！

皆がそれぞれの思いを抱えている間に、入江冬月に機会を与えてしまった。彼女は直接藤本凜人の手を掴んだ。男は後ろめたさから身を引いたが、入江冬月は彼の手は掴めなかったものの、袖を掴んで、まっすぐに彼を見つめた。「私たちは関係を持ったんです、藤本さん、本当に私のことを忘れてしまったんですか？本当に覚えていないんですか？！」

藤本凜人：！！

彼は遠くに静かに立っている寺田凛奈が自分を見つめているのを見て、心が乱れ、眉をひそめた。「でたらめを言うな！」