寺田凛奈は臼井陽一の向かいに座り、肺がんで日に日に痩せていく男を見つめた。彼の深い瞳には世の中を見透かしたような諦めが浮かんでいた。
その目は彼に知的な印象を与えていた。
彼はゆっくりと口を開いた。「君のお母さんがどうやって神秘組織に入ったか知っているかい?」
寺田凛奈は首を振った。「知りません」
臼井陽一はゆっくりと話し始めた。「実は、彼女は騙されて入ったんだ」
寺田凛奈は驚いた。
臼井陽一は続けた。「神秘組織は当時、研究会として小さな団体を立ち上げていた。君のお母さんは、彼らが意図的に仕掛けた難問や餌に引っかかって加入させられたんだ。でも、君のお母さんは組織が本当は何をしているのか全く知らなかった...ただ遺伝子改造に強い興味を持っていただけさ。人間の遺伝子には、常にこういった欠陥があるものだ。誰だって自分の遺伝子を完璧に近づけたいと思うだろう?君のお母さんは高潔を自負していたし、当時の医術の研究では既に頂点に達していた。
日本では三原御医が漢方医学で最も優れていると言われていたが、実はそうではない。当時、漢方医学で最も優れていたのは実は君のお母さんだった。ただ、年が若く、経験では三原御医に及ばなかっただけだ。
だから、神秘組織に目をつけられたんだ。
神秘組織のリーダーは学術研究という名目で、頻繁に君のお母さんと医術について議論し、様々な遺伝子薬剤の製造における難題を投げかけた。
君のお母さんは心血を注いで、毎回それらの問題を解決できた。時が経つにつれて、君のお母さんも何か様子がおかしいと気付き、リーダーに尋ねた。
リーダーは君のお母さんを海外の彼らのドリームファクトリーに招待し、君のお母さんはそこで初めて行き、神秘組織の正体を知ることになったんだ!」
臼井陽一は目を伏せた。「神秘組織が何をしていたか知っているかい?」
寺田凛奈は首を振った。「実はよく分かりません」