藤本凜人は相変わらず笑って言った。「会ったことはないかもしれませんが、少なくとも噂は聞いたことがあるでしょう!」
これは身分が低くないということを示している!
谷本奥様はさらに興奮して言った。「それなら、誰なのか聞かせてください……」
傍らの藤本奥様は谷本奥様の手を強く引っ張り、腕をつねり始めたが、谷本奥様は全く気にしなかった。
藤本奥様は怒りが込み上げ、この谷本奥様を追い出してしまいたかった!
実家からどうしてこんな愚かな甥の嫁が出てきたのか?
寺田凛奈を牽制するのは小手段に過ぎず、後で寺田凛奈を評価し、フォローすれば、面子も保てるはずだった。
しかし谷本奥様は断固としてこの縁談を壊すつもりだった。
藤本奥様は一時的に血の気が上がり、実家のために孫の嫁を牽制していたのに、実家の人々は何をしているのかと思った。
寺田凛奈が藤本家の最良の嫁候補であることはさておき、この縁談を台無しにしたら、藤本家でどんな面目が立つというのか?!
この瞬間、藤本奥様の心に突然失望が芽生えた。
長年、彼女は実家のために心を砕いてきた。
谷本家はとっくに没落していて、彼女がここにいなければ、藤本家の後ろについて恩恵を受けることもできず、とっくに名門の一軍から外されていただろう。
しかし今はどうだ?
実家のためにあれほど尽くしてきたのに、最後に何を得たというのか?!
藤本奥様は怒り心頭だった。
谷本奥様の口を止められず、藤本凜人を見るしかなかったが、同時に心の中で疑問に思った:
今日の孫は一体どうしたというのか?!
彼が寺田凛奈をどれほど大切にしているか、彼女はよく知っているのに、今日はどうして突然寺田家の面子を潰すようなことをするのか?
宴会場全体に小さな議論の声が広がった:
「まあ、藤本さんは寺田家との縁談を取りやめるつもりなのかしら?」
「でも、どうして寺田さんにあんなに丁寧なの!謝罪のためじゃないでしょう?」
「寺田さん、可哀想ね。まだ嫁いでもいないのに、もう他の人と寵愛を争わなければならないなんて……」