谷本佑仁は寺田凛奈のその言葉に、心が揺らいでしまった。
この数年間、彼は渡辺詩乃が神秘組織に敗れて、完全に計算されていたのだと思い込んでいたが、すべて彼の誤解だったのだ。
お嬢様はさすがはお嬢様だ。
彼は俯いて、苦笑いを浮かべ、しばらくしてから口を開いた。「彼女が残したのは薬剤です。」
寺田凛奈は突然彼を見つめた。「どこにあるの?」
谷本佑仁は首を振った。「それは、本当に分かりません。彼女はあなたに手がかりを残しました。当時、彼女は見つけられるかどうかは、あなたの実力次第だと言っていました。」
渡辺詩乃は死の直前に、三人のことをすべて綿密に手配していた。
四人が別れる時、老いぼれは寺田凛奈の身の安全を心配して、一言尋ねた。「お嬢様は本当に若お嬢様のことを心配なさらないのですか?それに、V16の手がかりを若お嬢様だけに残すのは、彼女を危険な目に遭わせることになりませんか?」
渡辺詩乃はその時、こう言った。「もし将来彼女が見つけることができたなら、それは彼女が神秘組織と対抗できる知恵と力を持っているということ。もし見つけられないなら...V16が姿を現さない限り、彼女は安全よ。神秘組織があなたを守ってくれるわ。」
手がかり...
母は本当に手がかりを残していた。
寺田凛奈は突然立ち上がった。今の谷本佑仁には彼女を騙す理由はない、言っていることは間違いなく真実だ。
それに母の性格からして、自分を守るために、手がかりは必ず自分にだけ残したはずだ。
でも母が残したものと言えば、音声メッセージとあの会社だけ。
会社...彼女が揚城にいた時、臼井家が会社を狙っていると疑って、会社中を隅々まで調べたのに、何も見つからなかった!
どうやら、彼女は何かを見落としていたようだ。
今や谷本佑仁は彼女にとって用済みだった。寺田凛奈は外へ向かって歩き出した。
数歩進んだところで、谷本佑仁が突然彼女を呼び止めた。「若お嬢様...」
寺田凛奈は足を止め、振り返った。
谷本佑仁の老いた顔には、おずおずとした表情と落胆の色が浮かび、まるで生きる気力を失ったかのように見えた。彼はためらいながら口を開いた。「申し訳ありません...お嬢様は私のことを許してくださらないでしょうね。」