寺田凛奈は閃いたアイデアを捉えようとしたその瞬間、携帯の着信音で中断され、眉をひそめた。
今まさに見落としていた何かが浮かび上がろうとしていたのに、一瞬で湖底に沈んでしまったような感覚だった。
彼女は静かにため息をついた。
焦っても仕方がないようだ。
携帯を手に取ると、優しい声が聞こえてきた。「凛奈、私これから藤本家に行くんだけど、来る?」
藤本凜人の母、佐竹璃与だった。
その優雅な婦人のことを思い出し、寺田凛奈は小さく笑った。「はい...お姉さま」
以前、義理の姉妹の関係を結んだのだから。
それに、佐竹璃与は本当に若々しく、毎日花を育てることを楽しみ、外の世界のことなど気にせず過ごしているため、そんな生活を送る彼女は悩みもなく、まるで30代のように見える。
寺田凛奈には、彼女を母と呼ぶのは難しそうだった。
しかし「お姉さま」という呼び方に、佐竹璃与は一瞬黙り込み、そして笑って言った。「二人の時はお姉さまでいいけど、藤本家では絶対に使わないでね」
寺田凛奈:?
眉を上げかけたその時、彼女は続けた。「息子の前で私がそう呼ばれると、彼が冷蔵庫みたいに冷たくなってしまうから」
寺田凛奈はその言葉を聞いて、しばらく黙った後、「分かりました」と答えた。
藤本凜人と佐竹璃与の関係はあまり良くないようだ。具体的な理由は分からないが、母子の間に誤解を生みたくはなかった。
電話を切ると、彼女は車で藤本家に向かった。
玄関に着くと、ちょうど佐竹璃与の車も到着したところだった。
白いワンピースを着た女性は、すらりとした体型で、その所作には昔の大家の令嬢のような品位と優雅さが漂っていた。ゆっくりと寺田凛奈の方へ歩いてきた。
「...何かご用でしょうか?」
寺田凛奈は「お姉さま」と呼びかけそうになり、何とか堪えた。
佐竹璃与は親しげに彼女を見つめ、そして口を開いた。「昨日は芽ちゃんと建吾の誕生日だったでしょう。私はその場には居合わせなかったけど、祖母として贈り物はしないとね。それに...あなた、三つ子を産んだって本当?」
寺田凛奈:「...」
三つ子の話をする時の佐竹璃与の目が、なぜあんなに意味ありげなのだろう?
特に、言い終わった後に「すごいわね!」と付け加えた時の表情といったら。
「...」