寺田凛奈は閃いたアイデアを捉えようとしたその瞬間、携帯の着信音で中断され、眉をひそめた。
今まさに見落としていた何かが浮かび上がろうとしていたのに、一瞬で湖底に沈んでしまったような感覚だった。
彼女は静かにため息をついた。
焦っても仕方がないようだ。
携帯を手に取ると、優しい声が聞こえてきた。「凛奈、私これから藤本家に行くんだけど、来る?」
藤本凜人の母、佐竹璃与だった。
その優雅な婦人のことを思い出し、寺田凛奈は小さく笑った。「はい...お姉さま」
以前、義理の姉妹の関係を結んだのだから。
それに、佐竹璃与は本当に若々しく、毎日花を育てることを楽しみ、外の世界のことなど気にせず過ごしているため、そんな生活を送る彼女は悩みもなく、まるで30代のように見える。
寺田凛奈には、彼女を母と呼ぶのは難しそうだった。