寺田凛奈は直接口を開いた。「暗号本はこれらの本の中にはありません」
藤本凜人は躊躇いながら尋ねた。「なぜそう言えるんだ?」
寺田凛奈は言った。「母は寺田健亮がどんな人間か知っていました。彼女は愛していませんでした。母が亡くなった後、健亮は必ず家の中にある母の痕跡を全て消すはずです。だから、暗号本をこの家に置くはずがありません」
藤本凜人は頷いた。
書斎の本の中には、全く読まれていないものもあり、中には包装すら開けられていないものもあった。一目で寺田健亮が見栄のために買ってきたものだとわかった。
彼は尋ねた。「手がかりがあるのか?」
寺田凛奈は頷いた。
彼女は突然口を開いた。「どんなものなら、堂々と残しておけて、誰にも疑われず、しかも自然に見えるでしょうか?」
藤本凜人は眉をひそめ、突然何かを思い出したように言った。「帳簿だ!」
「その通り、夢葉製薬有限会社の帳簿です!」
寺田凛奈は直ちに外へ向かった。
十八年間住んでいたこの家に、少しの愛着も感じなかった。
この場所は彼女にとって、ただの寝る場所に過ぎなかった。寺田健亮と富樫和恵が彼女に冷たくしても、実際にはあまり気にならなかった。
どうせよく眠れていたから。
だから、ここに何の感情もなかった。
藤本凜人はもう一度部屋を見回した。凛奈が幼い頃から育った場所がどんな様子だったのか気になったが、寺田凛奈の決然とした後ろ姿を見て、彼女の後を追った。
三十分後、寺田凛奈は藤本凜人を連れて、車で高岡佳澄の家に到着した。
ドアをノックすると、高岡佳澄は彼女を見た瞬間、興奮して叫んだ。「お嬢様、ついに家業を継ぎに戻ってきたんですか?」
寺田凛奈:「……」
彼女は少し黙った後、口を開いた。「当時、母が夢葉製薬会社をあなたに任せた時、帳簿も一緒に渡しましたよね?」
高岡佳澄はすぐに頷いた。「はい!ここにありますよ!」
彼は二人を中に入れ、書斎から大量の帳簿を持ってきて寺田凛奈に渡した。「これはここ数年のものです。製薬工場の収益は安定していて、毎年五、六百万円の配当があります。今年の四半期配当は既にお嬢様の口座に振り込んでいます。それから、これらは……」
寺田凛奈は彼の話を遮った。「母があなたに残した帳簿だけでいいです」