第786話 お金に困らない!

吉川はその言葉を聞いて、目に涙が溢れそうになった。

彼女は藤本奥様を見つめて「お嬢様……」

藤本奥様は足取りが不安定なまま、自分の住まいへと向かいながら「人間というのは永遠に満足することを知らないものよ。彼がいた時、私は会社のために譲歩してほしかった。かつては政略結婚も考えていた。彼が一歩一歩会社をここまで大きくしたのは、私への思いがあったからよ。分かる?凜人の理想は、強引な社長になることじゃなかった。彼は本質的にロマンチストだったの。私が愛情で彼をここに縛り付けてしまったのよ……この二日間、たくさん考えたわ。私の以前のやり方は、間違っていた。もしやり直せるなら、彼が生きていて、幸せであってほしい……会社が大きくなっても、人がいなくなってしまえば、何の意味があるの?」