第786話 お金に困らない!

吉川はその言葉を聞いて、目に涙が溢れそうになった。

彼女は藤本奥様を見つめて「お嬢様……」

藤本奥様は足取りが不安定なまま、自分の住まいへと向かいながら「人間というのは永遠に満足することを知らないものよ。彼がいた時、私は会社のために譲歩してほしかった。かつては政略結婚も考えていた。彼が一歩一歩会社をここまで大きくしたのは、私への思いがあったからよ。分かる?凜人の理想は、強引な社長になることじゃなかった。彼は本質的にロマンチストだったの。私が愛情で彼をここに縛り付けてしまったのよ……この二日間、たくさん考えたわ。私の以前のやり方は、間違っていた。もしやり直せるなら、彼が生きていて、幸せであってほしい……会社が大きくなっても、人がいなくなってしまえば、何の意味があるの?」

ため息と共に、彼女は藤本凜人の住んでいた別荘を離れ、ゆっくりと自分の別荘へと歩いて行った。

部屋に入ると、胸が締め付けられるような不安を感じた。

吉川は彼女のために五十嵐安神丸を持ってきた。一粒飲んだ後、その薬を見つめ、最後にため息をついて「もういいわ、凜人への借りは、全てあの女に返すことにするわ!」

藤本奥様はそう言いながら、また薬を飲み、胸の辺りが楽になってから、横になって眠りについた。

翌日、藤本奥様は突然目を覚ました。

目を開けて吉川を見て「何時?」

吉川は時計を確認して「まだ7時です」

「株式市場は何時に開く?」

「9時です」

藤本奥様はほっとして、起き上がってゆっくりと支度を始めた。そうしてぐずぐずしているうちに9時になり、彼女が吉川を見ると、吉川は携帯を見た後、顔色が変わった。

藤本奥様の心が沈んだ。案の定、次の瞬間、吉川が口を開いた「昨日の金価格は288で、今日は205です……」

藤本奥様は眉をきつく寄せた。

藤本凜人が買い付けた時は、1グラム400円近くだった。本当に半分の損失になってしまった!

それは2億5000万円!

藤本奥様の心臓が締め付けられる中、携帯が鳴った。電話に出ると、谷本さんの声が聞こえてきた「奥様、金価格をご覧になりましたか?私の友人は嘘をついていませんでした!金先物は本当にダメです。もう2億5000万円の損失です!このまま下がり続けると、本当に3億円の損失になってしまいます!」