第791話：決意、売る

余裏裏は驚いて、急いで押し戻して言った。「郝さん、結構です。今はお金に困っていませんから」

「少ないと思う？」

「そうじゃなくて……」

「そうじゃないなら受け取りなさい。ただであげるわけじゃないし、お金ができたら返してくれればいいわ」郝雨は笑うと牡丹の花のように美しく艶やかで、綺麗なバッグから名刺を取り出して渡した。「これは私の名刺よ。いつでも連絡してね」

余裏裏は名刺を手に取った。夜の森フロアマネージャー、郝雨。

郝雨についてレストランを出ると、彼女が真っ赤なポルシェに乗っていることに気づいた。

今年の最新モデルで、ナンバープレートまでうらやましいほど素敵だった。

本当にお金持ちだなぁ！

余裏裏は羨ましそうに彼女の車の後ろ姿を見送りながら、大人しく近くの地下鉄駅へ向かった。

「中古携帯、パソコン、洗濯機買取ります……」街中でよく聞く拡声器の声に、余裏裏は立ち止まった。

その声が遠ざかるのを聞きながら、突然アイデアが浮かんだ。

下を向いて、自分のバッグを見つめた。

これは20歳の誕生日に歐銘がくれたミラノインターナショナルの限定品だった。

西山別莊を出るとき、余裏裏は5、6個のバッグを持ってきていた。

どれも10数万から数十万円するブランドバッグで、数年使っているけど……まだ少しは金になるはず。

思い立ったが吉日で、余裏裏は翌日、バッグを持って地元の高級ブランド品取引市場へ向かった。

値段交渉を重ねた結果、5つのバッグを売って、合計318,000円を手にした。

市場を出た余裏裏の手元には、全てのバッグの中で一番安い赤いクラッチバッグだけが残っていた。

長く使っていたものを突然全部売ってしまったせいか、余裏裏の心は少し虚しかった。

携帯を取り出して李德に電話をかけたが、相手は長い間出なかった。

仕方なく諦めて、地下鉄で家に帰ると、玄関前に大勢の人が集まっているのに気づいた。

人々が囲んでいる方向は、まさに彼女が住んでいるワンルームマンションではないか。

余裏裏は胸がドキッとして、急いで近づいて聞いた。「何があったんですか？」

部屋に入ると、全ての物が散乱していた。

ソファは切り裂かれ、中のスプリングや綿、スポンジが飛び出していた。