あの男も、墨という姓だった。
外見もとても優れていて、若く見えた。
彼はさらに、とてつもなくすごいナンバープレートのロールスロイスを運転していた。それは、あらゆる関係を使い果たしても、所有者を突き止めることができないナンバープレートだった。
その男には盛輝グループを一晩で破産させる力もあった。
蘇澤は考えれば考えるほど驚愕し、ある可能性を思いついたとき、全身の力が抜け、額に冷や汗が浮かんだ。
「蘇社長、どうかしましたか?具合でも悪いんですか?」張會長はもう一球打ち、振り返って蘇澤の急に蒼白くなった顔色を見て、心配そうに尋ねた。
蘇澤は胸がドキドキし、全身がぼんやりしていた。
彼は先ほどの考えに驚いていた。
しかし、よく考えてみると、ありえないと思った。
周知の通り、墨氏の新しく就任した総裁の周りには女性がいなかった。彼の側に現れた唯一の女性は、あの沈家のお嬢様だけだった。
だから、喬綿綿が彼と一緒にいるはずがない。
この関係性を考えると、蘇澤はようやくほっとした。
彼の顔色がゆっくりと正常に戻り、手を伸ばして額に浮かんだ冷や汗を拭い、ゴルフクラブを取って張會長の側に歩み寄った。「何でもありません。ただ胃の持病が出ただけです。もう大丈夫です。」
張會長は頷き、さらに二、三の社交辞令を言ってから、ゴルフを続けた。
*
蘇澤が張會長に付き合い、契約の話を終えたのは、それから2時間後のことだった。
彼はゴルフ場の正門の外に立ち、張會長のランドローバーSUVが走り去るのを見送ってから、やっと身を翻して駐車場に向かい、帰る準備をした。
ちょうど振り返ったとき、黒い人影が彼に向かって歩いてくるのが見えた。
向こうの人の顔をはっきり見たとき、彼の顔色が変わり、足を止めた。
彼だった。
前回宴庭で会った男だ。
蘇澤は驚愕の表情で、何度も約束を取り付けようとしたがなかなか会えなかった陳會長が、黒服の男の傍らで非常に恭しい態度でついて歩いているのを見た。
二人の様子は、一方が主人で、もう一方が使用人のようだった。
使用人のように見えるのは、陳會長だった。
言わば、この光景は蘇澤にとって非常に衝撃的だった。