第597章 一歩到達

「お爺様、そうよ、お爺様がいる！」唐萱は最後の救いの藁をつかんだかのように、表情に僅かな希望を浮かべた。「お爺様はきっと見過ごすはずがない、お爺様に会いに行かなきゃ」

「唐さま、落ち着いてください」医師は唐萱の肩に手を置いて言った。「馬鹿なことを言わないでください。お爺様はあなたのことなど気にかけませんよ」

「嘘よ」

「分かりますか？あなたが難産の最中、私が手術室を出てお爺様に同意書にサインを求めた時、彼が何と言ったと思いますか？」

「もし手術中にあなたが危険な状態になって、あなたと赤ちゃんのどちらか一人しか助けられない場合、どちらを選ぶかと聞いたんです...」

「そして...」

「そしてどうなったの？」唐萱は顔を上げて、医師に尋ねた。「お爺様は何て？」

「彼は...赤ちゃんを助けろと」医師は真剣に唐萱に答えた。「お爺様はあなたの生死など気にしていませんよ。ただ赤ちゃんが欲しいだけです。そうでなければ、なぜあなたが出産を終えたばかりなのに、赤ちゃんを連れて行って、あなたに一目も会いに来ないのでしょう？」

赤ちゃんを助けろ！

唐萱はもはや何も聞こえなくなっていた。彼女の頭の中では、ただ「赤ちゃんを助けろ」という言葉が繰り返し響いていた。「そんなはずない、お爺様がそんなことを言うはずがない、絶対に」

「周りの看護師みんなが聞いていましたよ」

「私の祖父なのに、どうして孫娘をこんな風に扱うの？私の生死なんて全く気にしていないの？」唐萱は布団をつかみ、感情が崩壊の寸前だった。「私は彼の孫娘よ、実の孫娘...なのに、どうして私に死んで欲しいの？」

医師は唐萱の肩をしっかりと掴んで言った。「私も驚きましたよ。実の祖父なのに、あなたの生死など全く気にせず、お腹の赤ちゃんを全力で助けろと。あなたは...死んでも構わないと」

唐萱は何も違和感に気付かず、医師の言葉を聞き終わるとすぐに、ベッドサイドのコップを掴んで激しく投げつけた。「みんな私に死んで欲しいのね、みんな私に死んで欲しいの！」

医師は唐萱が制御を失っているのを見て、嘲笑うような目で彼女を見つめ、白衣を整えてから病室を後にした。そして約5分後、背の高い痩せた看護師が二人の警備員を連れて病室に入ってきた。

「唐さま、お支払いをお願いします。さもないと私たちも困ります」