部屋の隅で、老執事は静かにリビングにいる二人を見つめていた。
彼は寧夕が予想していたように坊ちゃまの機嫌を取ろうとせず、朝からずっと台本を熱心に読んでいることに気づいた。
一方、坊ちゃまはいつもと同じように本を読んだり絵を描いたりしていたが、よく観察すると時々寧夕をチラチラ見ていて、その表情は生き生きとして安心しているようだった。
美しすぎる女性はどうしても人に不安を感じさせるものなので、老執事は寧夕を一目見た時からとても心配で、若旦那が騙されるのではないかと恐れていた。
今のところの観察では、まあまあ大人しいようだが、いつまで我慢できるかはわからない……
首都には陸奧様の座を狙っている女性がどれほど多いか、坊ちゃまの継母になろうとあの手この手を使っているのだ。
そのせいで2年前にはあんな悪質な事件まで起きて、坊ちゃまが……
だから今回、若旦那があの女性をこんなに信頼し、二少さまも止めようとせず、さらに坊ちゃままでもがあの女性を好きそうな様子を見ると、本当に心配で仕方なく、警戒せざるを得なかった。
気づかないうちに2時間以上が過ぎていた。
寧夕の台本読みもほぼ終わり、坊ちゃまの絵も完成した。坊ちゃまはトコトコと絵を抱えて寧夕に見せに来た。
寧夕は顔を上げて見ると、驚きの表情を浮かべた。「これは……私を描いたの?」
意外にも、おとなしそうに見える坊ちゃまの画風はワイルドスタイルだった。
ワイルドスタイルの画家の特徴は、鮮やかで濃厚な色彩を好んで使い、率直で大胆な筆致で、内心の感情を表現するために強烈な画面効果を作り出すこと……
この絵は人物の比率が奇妙で構図も特殊だが、人物の特徴を正確に捉えていたので、寧夕は一目で自分だと認識できた。
坊ちゃまは絵を抱えてうなずき、少し緊張した様子で、彼女が気に入らないのではないかと心配しているようだった。