寧夕は心を落ち着かせてから、中へ歩み入った。
おそらく足音が聞こえたからだろう、経典を持っていた席世卿の手が一瞬止まり、そしてゆっくりと顔を上げた。
来訪者を見て、席世卿の目は古井戸のように静かで、一切の波風も立てなかった。
「寧さま……」
この三文字を聞いて、寧夕は思わず血を吐きそうになった。ニマ、「だんな」まで出てきたぞ、本当に出家する気なのか!
寧夕は眉間を摘んで、思い切って席世卿の向かい側に胡座をかいて座り、長いため息をついてから言った。「ねぇ……お兄さん、なんで突然出家なんてするの?どういうつもり?」
席世卿:「これは私が熟考した末の決断です。もし寧さまが私を説得しに来たのでしたら、もうお帰りになられても結構です。」
「私のせい?」寧夕は単刀直入に尋ねた。
席世卿:「すべては本心からの決断です。他人とは無関係です。」
寧夕は深く息を吸い込んで、「じゃあ、理由を聞いてもいい?一体なぜ?昨夜のことだとしても、私のことを好きになって、でも私に好きな人がいるって分かったとしても、出家するほど思い詰めることないでしょう?これって全然筋が通らないよ……」
席世卿:「すべては一念の差。一念で天国、一念で地獄、一念で生、一念で死。」
寧夕は泣きそうになった。「お願いだから、普通に話してくれない?」
彼女は本当に怖かった!
「寧さま、もしあなたが罪悪感から来られたのでしたら、それは不要です。これは私自身の決断です。」と席世卿は言った。
「じゃあ、お父さんとお母さん、それにおじいちゃんは?もう気にしないの?あなたを育ててくれた人たちなのに、何も言わずに出家しちゃうの?」
「すべては縁。私と彼らの縁はもう尽きました。彼らには世軒がいます。」
寧夕は思い出した。席世卿が弟がいると言っていたことを。
ニマ、すべて考え尽くしているじゃないか。本気で出家する気まんまんだ!
「ねぇ、席さん、卿卿?お願いだからもう一度よく考えてみて。出家は本当に大事なことよ!三日、あと三日待って、よく考えてから決めても遅くないでしょう!」寧夕は引き延ばし作戦を試みた。
「決意は固いです。どうぞお帰りください。今日からは私の法号、圓清とお呼びください。」席世卿は客を送り出そうとした。