第370章 天は青く、野は茫漠

薛夕は直接その場で立ち尽くした。

  その顔は、見覚えがあるようで見知らぬものだった。

  五官は同じだが、雰囲気は全く異なっていた。

  小さな炎が人にぶつかったら、不機嫌そうに眉をひそめて、怖い顔で「ごめん」と言うだろう。しかし、この人は衝突された人を見つめ、沈黙の中に傲慢さを漂わせ、衝突された人の罵声がだんだん小さくなり、最後には口をゆがめて黙ってしまった。

  この人は歩き続けた。

  それでも、薛夕はこの人が小さな炎だと感じた。

  「夕さん、何を見ているの?」

  謝瑩瑩が突然話しかけ、薛夕は我に返った。彼女は謝瑩瑩に答えず、珍しく感情を抑えきれず、小さな炎の後ろに駆け寄って叫んだ。「ひーちゃん。」

  制服を着た少年は聞こえなかったかのように、そのまま前に進んだ。

  薛夕は焦り、早足で追いつき、彼の肩をつかんでもう一度叫んだ。「高彥辰。」

  少年は足を止めた。

  薛夕の心臓が瞬時に速くなった。

  彼女の目には光が宿り、少し慎重さと期待が混じっていた。

  彼なの?彼なの?

  薛夕の心が緊張すればするほど、表情は冷静さを保った。そして少年がゆっくりと振り返るのを見た。彼の目には少し戸惑いが見えた。彼女を見た後、視線は彼女の赤い髪に一瞬留まり、すぐに視線を戻して口を開いた。「僕に話しかけたの?」

  声には少し裂けるような感じがあり、彼の印象をより無口で傲慢にしていた。小さな炎とは違っていた。

  しかし、近づいてよく見ると、その顔がはっきりと見えた。

  同じ鳳眼、同じ唇、同じ鼻筋、眉間のあの骨の不機嫌そうな様子まで、すべて同じだった。

  ただし...髪は違った。

  薛夕は手に力を込めて、うなずいた。しかし疑問を感じた。「私のこと、覚えていない?」

  目の前の少年は彼女を数回見て、180センチを超える身長で見下ろすように、特有の傲慢さを漂わせながら、鳳眼を少し上げて口を開いた。「申し訳ないけど、そんな古くさい声のかけ方は、もう時代遅れだよ。」

  そう言い残すと、彼は歩き続けた。

  しかし薛夕は急いで追いかけた。「ひーちゃん、あなた...」