顧雲卿は立ち去ろうとしたが、肩に置かれた手の力が強く、まったく動けなかった。
振り返ると、赤い髪の少女が後ろに立っていた。彼女の肩を押さえているその手は白く細長く、一見力強そうには見えない芸術家のような手だったが、そんな手で軽く押さえられているだけなのに、彼女は動けなくなっていた。
顧雲卿は抵抗してみたが、やはり振り払えず、表情を引き締めて怒鳴った。「薛夕、何をするの?」
薛夕は無表情のまま、片手で彼女を制しながら、もう片方の手で携帯を取り出した。
顧雲卿が振り返って押しのけようとしたが、薛夕は素早く彼女の手首を掴み、すぐさま体を回転させた。顧雲卿は制御不能に体が捻られ、気付いた時には両手が薛夕に押さえつけられていた。そして薛夕が少し力を入れると——
「バン!」
顧雲卿は押されて壁に体を押し付けられ、両手は背後で押さえつけられていた。今度こそ抵抗しようとしたが、もはや力を入れる余地もなかった。
顧雲卿は我慢できずに叫んだ。「薛夕、離して!何?私を殴るつもり?」
その言葉を聞いて、李紫夏は思わず薛夕の前に寄って来た。「夕さん、早く彼女を離して。」
彼女は声を潜めて、薛夕の耳元で囁いた。「顧家も医薬業界にいるのよ。怒りに任せて何かしないで。彼らは娘を溺愛してるから、本当に娘のために貴方の家族に報復するわ。夕さん、冷静になって。」
顧雲卿はさらに得意げになった。
実は前回、錢箏が薛夕に姉さんと呼びかけて付きまとっていた時から、薛夕には何か謎めいた背景があるのではないかと思い、わざわざ調べさせたが、彼女の家には何の背景もないことが分かった。
金物業界で成功した成り金で、家族と別れて京都に追いやられ、分不相応にも医薬業界に進出しようとしている。どんな背景があるというの?
錢箏はきっと頭がおかしくなって、彼女の個人的な魅力に魅了されただけでしょう?
だから、顧雲卿は遠慮なく彼女に対抗したのだ。
顧雲卿は直接鼻を鳴らした。「今更私を離しても遅いわ!言っておくけど、私に手を出したら、代償を払うことになるわよ!」
この言葉を聞いて、謝瑩瑩が口を開いた。「もう遅いなら、本当に彼女を殴っちゃおうか?このままじゃ損じゃない?」
顧雲卿:???
なんという発想!