第592話 失敗を待ち構える！

鄭直は一瞬固まり、声のトーンが数段下がって、躊躇いながら口を開いた。「ボス？」

向淮は眉をひそめた。

彼は鄭直が若い子に対して敵意を持つ理由を知っていた。それは彼自身が原因だった。しかし、鄭直の両親は国のために命を落とし、彼は特殊部門で高い地位にいた。

あの頑固な古参たちは鄭直の存在を認めており、彼は主流派に属していた。

部門全体も複雑で、すべてが彼の管理下にあるとはいえ、彼はまだ若い子に友人や命を懸けられる戦友を増やしてほしいと思っていた。

鄭直は、彼が若い子のために選んだ人物だった。

この男は融通が利かず、人を見下すところがあるが、一つ良い点がある。それは一度認めた相手には心底忠実になることだ。例えば、鄭直は彼に対して常に無条件で無制限の支持を示していた。

彼に若い子を認めさせ、将来の助力となってもらうために...

将来のことを...

向淮はここまで考えて、目を伏せ、それ以上考えることができなかった。

彼が厳しい口調で何か言おうとした時、薛夕が支払いを済ませて戻ってきたのを見て、冷たい態度は瞬時に消え、電話に向かって「今夜、私のところに来い」と一言だけ告げた。

電話を切ると同時に薛夕が近づいてきて、彼が自分の携帯を持っているのを見て「どうしたの？」と尋ねた。

向淮は手を振って「ああ、うるさい蚊が一匹いただけだ」と言った。

彼は手首をひねって携帯を薛夕に返し、彼女が持っている毛糸を見つめると、目元にさらに甘い色が浮かんだ。

彼は低い声で尋ねた。「マフラーを編むのにどのくらい時間がかかる？」

薛夕は少し考えて「さっき店員さんに聞いたけど、早ければ2日くらいかな」

向淮の心はさらに甘くなった。「2日も時間を無駄にするの？」

2時間の映画を見るのさえ惜しむ若い子が、2日もかけて彼のためにマフラーを編もうとするなんて、本当に可愛らしい。

向淮は横を向き、少女の頭頂の柔らかな髪を見ることができた。

二人は精品店を出て、一緒に外へ向かい、キャンパスの石畳の道を並んで歩いた。両側には木々が立ち並び、天気は涼しくなり、イチョウの木の黄色い葉が風に揺れていた。

静かな道には二人だけがいた。

向淮は彼女の手を握りながら尋ねた。「光源機を研究開発するつもり？」