第674章 向・クズ男・淮

薛夕は「…………」

彼女は飛べなかった。

より正確に言えば、集中力が足りなかった。集中しようとすると、頭の中は数学の公式でいっぱいになり、ただ飛ぶことだけに意識を集中することができなかった。

何度か試してみた後、薛夕は確信した。景飛が嘘をついているか、それとも彼女の異能には制限があるかのどちらかだ。とにかく今は、使うことができない。

他の数人もあっさりと諦めた。

傍らの鄭直は薛夕が気を失っていた時はとても心配していたのに、今は意地悪く言い始めた。「はっ、もともと役立たずの異能を目覚めさせただけなのに、今は使えもしないなんて、本当に……」

後の言葉が終わらないうちに、高彥辰が突然鋭い眼差しを向けた。「死にたいのか？」

この少年は、口より先に手が出るタイプだった。

しかし鄭直は全く怖がる様子もなかった。結局のところ、25歳の自分が19歳の子供を恐れるわけがない。

彼は首を突き出して言った。「誰に向かって話してるんだ？俺が誰だか知ってるのか？俺は特殊部門のp9だぞ。お前が特殊部門に入ったとしても、p1からのスタートだ。俺が何かしろと言えば、お前はそれをしなければならないんだ！」

この言葉を聞いて、高彥辰は手首をぐるぐると回し始め、傲慢な目つきで不機嫌そうに言った。「くだらない。試してみるか？」

鄭直は「……」

しかし、高彥辰が動く前に、景飛が飛んできて直接鄭直の肩に乗った。「息子よ、もう一度言ってみろよ。誰の異能が役立たずだって？あぁ？」

「…………」

二人が取っ組み合いを始める中、高彥辰は足を止め、引き返して、再び薛夕の傍に立った。

薛夕はその二人を気にせず、代わりに高彥辰に向かって尋ねた。「あなたは……火の異能？」

落下した後のことは覚えていなかったが、その前のことははっきりと覚えていた。

高彥辰は頷いた。「俺も前回浜山から落ちた時に目覚めた異能だ。」

薛夕は「ああ」と言って、淡々と尋ねた。「代償は何？」

彼女は小さな炎のことを心配していた。

馮老先生の代償は自分の命だった。

景飛の代償は高所恐怖症。

これらすべてが、目覚めた異能と代償には関係があることを示していた。

小さな炎の代償も、ひょっとして恐ろしいものなのではないか？昨日彼は異能を使ったのに……