真夜中。
薛夕は机に向かって座り、本を見つめていたが、珍しく勉強に没頭できず、気持ちが複雑だった。
その時、携帯が鳴った。
見てみると……向淮からだった。
見慣れた「イケメン」という連絡先を見て、彼女は電話に出た。
電話に出るや否や、相手の低い声が聞こえてきた。「人を殴ったって聞いたけど?」
軽い口調で、少し冗談めいた感じだった。
薛夕はまばたきをした。
裴任を殴ってから今まで、彼女に電話をかけてきた人は皆、同じことを言っていた。大変なことになったぞ、大変なことに巻き込まれたぞ!と。
本来大したことではなかったのに、みんなにそう言われ続けて、少し煩わしく感じていた。
ただ向淮の言葉だけは、なぜか心が軽くなった。漆黒の瞳で、他人には難解だが彼女にとっては簡単な専門書を見つめながら、思わず唇の端が上がった。「うん、みんな私が捕まって、終身刑になるかもしれないって言ってる」