第360章 人を殴る力もない

もし一人目が夏天に与えた印象が陰険だとすれば、二人目が与えた印象は強硬だった。

「この二人とも達人ね」と葉婉晴は眉をひそめて言った。彼らは特別行動部の者で、その任務の一つは管轄区域内に入ってきた達人を調査することだった。

このレベルの達人はどこに行っても監視されるものだ。

しかし、この二人の周りには明らかに監視の目がない。これは二人が監視から逃れる方法を持っているということを証明している。

「全部で十人しかいないんだから、さっさと片付けてくれよ」後から来た男が、頭を殴られた男に言った。

「面倒くせぇ」その男は「面倒くせぇ」と言った後、すぐに一発で相手を倒し、続いて両足で隣の男を蹴り飛ばした。彼の拳は風のように猛烈な速さだった。

「軍体拳だ、軍人だな」夏天は少し驚いた。この軍体拳は華夏の特殊隊出身者なら誰もが使える。

「二十秒か、お前弱くなったな。女に近づきすぎだって言っただろ。この速さじゃ遅すぎる」後から来た男が不満そうに言った。

二十秒で十人を倒したのにまだ遅いと言う。周りの人々は皆、奇妙な目で二人を見ていた。

地面に倒された男たちは、うめき声を上げながら、互いに支え合って立ち上がった。「覚えてろよ」

「待て」後から来た男が突然叫び、男たちは動けなくなった。「ここの物を壊したんだ。弁償して行け」

先頭の男は財布から千元を取り出してテーブルに置き、それから皆で支え合いながら立ち去った。彼らのテーブルの二人の女性は、殴られた男を驚きの目で見ていた。

「あなたの頭、まだ血が出てるわ」一人の女性が言った。

「ああ、すぐ治るよ」殴られた男が答えた。

「さっきの姿、すごくかっこよかったわ」もう一人の女性が憧れの眼差しで言った。

「もっとかっこいい姿も見せてあげられるよ。見てみる?」殴られた男は女性を誘うように言った。

「もう、やだぁ」女性は照れながら言った。

「おい、じゃんけんしようぜ」後から来た男が言った。

「いいね、久しぶりだな」殴られた男が興奮した様子で答えた。

その後、二人は本当にじゃんけんを始めた。このじゃんけんは、まさに前代未聞だった。

「人を呼んで監視させましょう」葉婉晴の秘書が電話を掛けようとした。

「必要ないよ。私たちがここで見てるじゃないか。呼ぶ人たちが私たちより監視が上手いとでも?」夏天は相手に尋ねた。