傷は深くなかったが、氷水で洗い流したばかりで血は止まっていたものの、陸墨擎は心配で彼女を居間へと連れて行った。
喬栩はまだ先ほどの脳裏に浮かんだ光景を考えていて、他のことに気づかないまま、陸墨擎に連れられて居間に座った。
ヨードチンキが傷口に触れた刺すような痛みで、やっと先ほどの鼻血が出そうな光景から我に返った。
いつの間にか、陸墨擎は救急箱を持ってきて、片膝をついて彼女の傷の手当てをしていた。
この角度から見ると、陸墨擎の五官は完璧すぎて、どこにも欠点が見つからないほどだった。
最初に彼に会った時、彼と結婚したいと決めたのは、おそらくこの顔のせいで、見た目に惹かれたのだろう。
お兄さん、私と結婚してくれない?
脳裏に、突然また自分の声が響いた。幼い頃の稚拙な声ではなく、今の自分の声だった。
その認識に、喬栩は大きく震え、陸墨擎に掴まれていた手も激しく震えた。それに気づいた陸墨擎が顔を上げて彼女を見た。「痛かった?」
彼の声は優しく、眼差しは言葉にできないほど温かかった。そして、この意味深な質問と、喬栩の脳裏に浮かんだ光景が相まって、喬栩の体は熱くなっていった。
「い...いいえ」
彼女は顔を真っ赤にして慌てて首を振った。陸墨擎はようやく彼女の顔が酷く赤くなっていることに気づき、落ち着かない様子で目が泳いでいるのを見た。
彼女の漂うような視線と、熟れたリンゴのように赤くなった頬を見て、陸墨擎は何かを思い出したかのように、目に笑みが広がった。
絆創膏を取り出して彼女の傷に貼り、喬栩が手を引こうとした時、手首を陸墨擎に掴まれた。
指先で挑発するように彼女の手首を軽く撫でながら、彼女の体が硬くなっていくのを感じないふりをして、低い声で尋ねた。「何を考えていたの?顔が赤いよ」
まるで陸墨擎に心の内を見透かされたかのように、喬栩は飛び上がるようにソファから立ち上がり、手を素早く陸墨擎の手から引き抜いて、慌てて弁解した。
「何も考えてないわ!何も!」
彼女の声は緊張のあまり、思わず高くなっていた。
彼女の隠しきれない様子を見て、陸墨擎は眉を下げて唇を噛み、上がりかけた口角を押さえつけながら、彼女を見上げて言った。「じゃあ、どうしてそんなに顔が赤いの?」
「痛いからよ!」