「間違いなく、この恐ろしい大蛇は神血生物に違いない。水中の生物は元々殺しづらいが、まして神血生物となればなおさらだ。
神の天子の多くの強者たちも、この大蛇を狩ろうとする意図はないようだ。ただ大蛇を満腹にさせて、彼らが安全に向こう岸に到達できるようにしたいだけのようだ。
韓森は必死で漕ぎながら、対岸を観察していた。船が川の中心を過ぎると、松明の光が向こう岸をかすかに照らし始めた。
韓森は『氷肌玉骨の術』を修練してから、体の機能が強くなったようで、視力も以前より良くなり、夜目も少し効くようになった。今では対岸の石壁に直径2〜3メートルの岩穴があるのがはっきりと見えた。それ以外に通路はなく、その岩穴が神の天子たちの目的地のようだった。
韓森がその岩穴を観察していると、突然横で激しい水音が聞こえた。すぐに「まずい」と叫び、横を見ると、案の定、巨大な黒鱗の大蛇が小舟から2メートルも離れていないところから水面に現れ、その邪悪な口を彼らの小舟に向かって開いていた。上下の顎に恐ろしい牙がはっきりと見えた。
韓森は考える間もなく、すぐに水に飛び込んだ。水中で黒甲虫の鎧を召喚し、全身を包み込むと、魚のように水中を必死で対岸に向かって泳いだ。
……
渡河の過程は非常に悲惨だった。黒鱗の大蛇は食欲が異常なのか、それとも人間を殺す意図があったのか、30〜40人の命知らずのうち、最後に対岸に到着したのはわずか2隻の小舟で、生き残ったのはたった7人だった。残りは水中に落ちて生死不明だったが、十中八九は命を落としたに違いない。
そして、黒鱗の大蛇も再び水面に現れることはなかった。
「天子様、あの黒鱗の畜生は神血生物とはいえ、生まれつき知能が低い。今は満腹なので、我々が渡河しても大きなリスクはないでしょう」と羅天揚が笑いながら言った。
「渡河せよ」神の天子が命じると、彼ら十数人はようやく3隻の船に分かれて、対岸に向かって漕ぎ出した。
案の定、3隻の船が対岸に到着するまで、黒鱗の大蛇は再び現れて攻撃することはなく、十数人全員が安全に上陸した。
「何をぼんやりしている?中に入れ」羅天揚は7人の生存者に鞭を振るい、彼らを岩穴の中へと追い立てた。
生き残った7人は恐れおののきながら岩穴の中に入っていった。体は止めどなく震え、今では後悔の念でいっぱいだった。賞金に目がくらんでここまで来てしまったが、今回は命を落とすことになりそうだ。金なんて何の役に立つのか。
しかし、進んでいくうちに、もはや異生物に遭遇することはなかった。わずか30分ほどで岩穴の奥に到着した。
岩穴の奥には水たまりがあり、その片側には直径十数メートルの砕石の巣があった。巣の中央には、ダチョウの卵ほどの大きさで、黒い模様のある卵が2つあった。
「ハハハ、さすがだ。神血生物の卵が、しかも2つもある。今回で私の神遺伝子は80ポイント以上に上がるはずだ」神の天子は大喜びした。
それでも神の天子は理性を失うことはなく、同じく興奮している羅天揚に目配せをした。羅天揚はすぐに意図を理解し、鞭で命知らずたちを追い立てて卵を取りに行かせた。
数人の命知らずが恐る恐る砕石の巣に入り、2つの卵を抱えて出てきた。
しかし、彼らが砕石の巣から出る前に、隣の水たまりからブクブクと泡が出始めた。そして突然、ボンという音とともに水が噴き出し、水流とともに巨大な蛇の頭が現れた。不気味な暗血色の蛇の目が、蛇の卵を抱えた数人をじっと見つめていた。」
「くそっ、何をぼーっとしてるんだ、卵を投げろ」神の天子は彼らに向かって大声で叫んだが、彼らはすでに怖気づいていた。こんなに近くで黒鱗の大蛇に睨まれて、肝を冷やし、両足はガクガクで動けなくなっていた。神の天子が二度呼んでも誰も反応しなかった。
「くそっ、役立たずめ」神の天子は罵り、血色の大剣を召喚し、剣を構えてその数人に向かって猛ダッシュした。
羅天揚たちも油断できず、次々と武器を召喚し、神の天子と一緒に突進した。
数歩で恐怖で固まった人々の前に到達すると、神の天子は一気に二つの蛇の卵を奪い取り、振り返って洞窟の外へ走り出した。
黒鱗の大蛇は元々自分の卵を心配していたが、神の天子が卵を持って外へ逃げるのを見て、怒り狂い、体を水たまりから飛び出させ、みんなに向かって猛烈に襲いかかってきた。
「奴を食い止めろ!」神の天子は大声で叫びながら、自分は一切躊躇せずに大股で洞窟の外へ走り続けた。
羅天揚はさらに酷く、震えている二人をつかんで、そのまま黒鱗の大蛇の顔めがけて投げつけた。黒鱗の大蛇は一人を口に咥え、あっという間に生きたまま飲み込んでしまった。
他の者たちも同様に、生き残った者たちを人肉の盾として使い、一時的に黒鱗の大蛇の攻撃を防ぎながら、大蛇の追跡をかわしつつ洞窟の外へ退却した。
神の天子は二つの蛇の卵を抱えて猛スピードで走り、すぐに洞窟の入り口に到達した。心の中で喜びを感じていたが、突然目の前に金色の拳が現れ、瞳孔の中で急速に大きくなるのを見た。
バン!
神の天子はまさか洞窟の入り口の横に人が隠れているとは思いもよらず、突然の拳に顔面を殴られ、顔から血が飛び散り、鼻は曲がってしまった。体は後ろに倒れ、反射的に手で顔を覆った。
彼が抱えていた二つの蛇の卵は飛び出し、金色の人影が素早く飛び上がり、片手で一つの卵をつかみ、着地するとすぐに川の方へ全速力で走り去った。
「金貨め!」神の天子は顔を押さえながら地面に倒れたが、すぐに強引に体を支えて立ち上がった。その独特の金色の鎧を見て、誰だか一目でわかり、歯ぎしりしながら叫んだ。
韓森は先ほど混乱に乗じて岸辺まで泳ぎ、洞窟の方には向かわず、大きな岩の後ろに隠れていた。神の天子たちが洞窟に入ったのを見てからこっそりと後を追い、外で様子を窺っていたところ、ちょうど神の天子が卵を持って飛び出してくるのを見て、躊躇なく一発殴り、ついでに二つの蛇の卵を奪取した。
韓森は自分の青銅の三日月槍が雪隆雁に壊されてしまったのが惜しまれた。そうでなければ、この不意打ちで神の天子という厄介者を殺せたかもしれない。
韓森が川辺に走りついたとき、突然川の水が荒れ狂い、もう一匹の巨大な黒鱗の大蛇が水中から現れた。
「くそっ、まだ一匹いるのか?」韓森は振り返って後ろを見ると、神の天子たちの一団も飛び出してきて、後ろにはまだ一匹の黒鱗の大蛇が追いかけてきていた。
「くそっ、これ以上逃げられるか、金貨め。今度こそお前を八つ裂きにしてやる」神の天子は金貨のことを骨の髄まで憎んでいた。今、彼が黒鱗の大蛇に行く手を阻まれているのを見て、心中大いに喜んだ。
川から現れた黒鱗の大蛇が虎視眈々と自分を見つめているのを見て、韓森は頭を急速に回転させ、右手に力を込めて手にした蛇の卵を神の天子に向かって投げた。「受け取れ、一人一個だ。まずは協力して大蛇と対決しよう」
「誰がお前なんかと協力するか。今日は卵も奪い、お前も殺してやる」神の天子は韓森が怖気づいたと思い、冷笑しながら蛇の卵を受け取ったが、触れた瞬間、その卵はパッと割れ、卵黄と卵白が彼の手と体中に飛び散った。神の天子は一瞬呆然とした。