南條博士に会う!

「社長が言ってるんだけどさ、栗原郁子さんに確認したいことあるって。いつ「栗原愛南さんを海浜市から消せ。」なんて話になってたわけ?社長の記憶にはまったくないってさ。」紀田亮の声が電話の向こうから聞こえてきた。

その言葉を聞いたとたん、栗原文彰は一瞬ぽかんとして、信じられないみたいに栗原郁子を振り返った。

栗原郁子はたちまち青ざめ、怒られるってわかっているのか、俯いて唇を震わせる。

栗原文彰は慌てて紀田亮に平謝りを繰り返すが、最後には「栗原家は娘の躾をもっときちんとするべきですね!」って棘のある言葉をもらい、ようやく電話を切った。そして栗原郁子をきつく睨む。

栗原郁子はうなだれ、涙を流しながら声をしぼりだすように言った。「だって愛南が森川さんに纏わり付いてるの見ちゃったんだもん…私と辰の婚約に響くんじゃないかと心配だったし、森川家に悪いイメージ持たれたくなかったの。パパ、わざとやったわけじゃないの…」

すると栗原文彰は声を荒らげる。「森川さんを盾に取るような真似、許されるわけがないだろう!」

栗原郁子は白い指先で拳を握り締め、計算された涙を目元に湛えながら、まるで舞台の上の可憐な人形のように首を傾げた。「パパ、愛南は一応パパの娘でもあるし…もし私が言わなかったら、甘く見て叱らないんじゃないかと思ったの。」

「この大馬鹿者が!」

栗原文彰はすぐさま話題を切り替えるように言い放つ。「何度言えばわかる?娘は郁子だけだ。愛南なんぞ、郁子と比べるのも失礼だろう!」

そこに栗原奥様が不賛成そうに口を挟んだ。「あなた、そんな言い方はいけないわ。どのみち愛南もあなたの娘なんだから!」

栗原文彰はすぐさま顔をそむけて言い返す。「長いこと一緒に住んできたんだ。この気持ちはわかってるだろ?あのとき広石若菜に嵌められて、あなたには悪いと思ってる。けどあの女とその娘を、一生認めない。本物の家族はあなたと郁子だけだ!」

家政婦として傍らに立っていた広石若菜は、そう言われて拳を固く握った。

彼女は憎しみを露わにしたような目をする。

愛してやまない男性と、幼なじみのお兄さんでもあるこの人の目は、いつだって南條静佳しか映していない…