南條博士が来た

三人はレストランに入った。

森川辰は辺りを見回したが、その見慣れた姿は見当たらなかった。

彼は思いを切り替え、栗原郁子に向かって言った。「南條博士が森川グループで働くなんて、ありえるのかな?」

栗原郁子は栗原奥様をちらりと見て、声を潜めて言った。「辰お兄さん、まずは南條博士とよく話し合ってみて。誠意を示せば、きっと南條博士の心を動かせると思うわ。」

彼女は栗原奥様の方に歩み寄り、恥ずかしそうに言った。「お母さん、ブラの肩紐が外れたみたいなの。トイレに付き添ってもらえる?」

栗原奥様は彼女とトイレに向かった。

森川辰は先に個室の入り口まで歩いた。

彼が森川グループで最初に配属されたのは研究開発部だった。もし南條博士が彼のチームに加われば、森川グループでの彼の信頼度は大きく上がるはずだ。

彼は服を整え、そして扉を開けた。

目に飛び込んできたのは、優雅な女性の後ろ姿だった。彼女は入り口に背を向けてお茶を注いでいた。

…噂の南條博士が若い女性だとは?

森川辰は心の動揺を抑え、敬意を込めて言った。「南條博士、はじめまして。森川グループの森川辰です。お会いできて光栄です。」

言葉が終わるや否や、女性はゆっくりと振り返った。

森川辰はその美しい顔を見て、瞬時に驚愕した。「栗原愛南?!なぜ、なぜここに!」

栗原愛南は栗原奥様からのLINEを受け取り、すぐに到着すると言われたので、栗原奥様の席にお茶を注いでいたところだった。

しかし、森川辰が突然入ってくるとは思わなかった。

彼女の表情に少し面白そうな色が浮かんだが、声は怠惰だった。「それは私が聞きたいことよ。」

彼女が約束していたのは明らかに栗原奥様だったのに…

森川辰は顔を曇らせた。「安心して、お前を探しに来たわけじゃない。」と言った。

彼は見回して尋ねた。「南條博士はどこ?」

栗原愛南は一瞬止まった。「誰?」と言った。

森川辰はいらだちを隠せずに言った。「この部屋のお客さんだよ。どこにいるんだ?」

「…」