皆が驚き呆然とした。
竹歳明はこういった集まりでは、いつも気取っていたのに、こんなに熱心な態度を見せたことがあっただろうか?
それに…「あなた様」?
この二十歳そこそこの若い女性は一体何者なのか?
栗原郁子は指をきつく握りしめ、顔が火照っているのを感じた…
森川辰は眉をひそめ、竹歳明と栗原愛南を交互に見た。「二人は知り合いなのか?」
竹歳明は栗原愛南を見つめ、一瞬言葉に詰まった。
ボスは正体を明かしたくないか誰も知るわけがない。
案の定、次の瞬間、栗原愛南は竹歳明に向かって手のシャンパングラスを軽く上げ、桃色がかった瞳に警告の色をちらつかせながら言った。「竹歳社長、こんにちは。私はまだ若輩者ですので、そんな敬語は使わないでください。」
竹歳明はボスの意図を理解し、咳払いをして言った。「栗原お嬢様、ここでお会いするとは思いもよらなかったので、つい興奮してしまいまして。」
この言葉に…皆は栗原愛南の絶世の美貌を見ると、何かを悟ったかのように、笑みを浮かべはじめた。
蛇口社長が近づいて冗談めかして言った。「竹歳社長、あなたはお目が高いですね!この方は本当に稀に見る美人ですよ!」
竹歳明はすぐに言った。「栗原お嬢様は美しいだけでなく、その能力も目を見張るものがあります!」
蛇口社長は一瞬驚いた。
先ほど江口亜英も栗原愛南を褒めていた…
彼はようやく真剣に対応し始めた。「栗原お嬢様、これは私の名刺です。今後、機会があれば是非一緒にお仕事ができればと思います。」
蛇口社長が先陣を切ったことで、他の人々も直ちに集まってきた。
「栗原お嬢様が竹歳社長に褒められるなんて、さぞかし優れた方なのでしょう。」
「若くして優秀ですね…」
栗原愛南はこういった場が好きではなく、淡々と微笑んで応対するだけだった。
一方、江口亜英は前に出て、笑顔で彼らと言葉を交わした。
森川辰は群衆の中に立ち、栗原愛南が新星のように輝き始めるのを見て、何か心の中でモヤモヤしたものを感じた。彼は冷ややかに言った。「どんなに凄くても、南條博士より凄いわけがないでしょう。」
この言葉に、皆が一瞬静まり返った。
竹歳明は眉を上げ、意味深な笑みを浮かべたが、何も言わなかった。
栗原愛南は落ち着いてシャンパングラスを持ち、口を開く様子もなかった。