見舞い

森川北翔は長い脚で素早く歩き、すでに階段を上がっていた。

栗原愛南は井上斉子の方へ歩いていった。

彼女は患者服を着て車椅子に座っていたが、興奮して立ち上がると、そばにいた中年の女性が慌てて彼女を支えた。「まずは座ってください。」

井上斉子は座ってから、そばにいる二人を指さして栗原愛南に説明した。「恩人さん、こちらは私の両親です。」

言葉が終わるや否や、井上斉子の母親である井上奥様が愛南の手をぐっと引っ張り、目に涙を浮かべながら緊張しながら言った。「あなた、うちの斉子を助けてくれてありがとう。後で看護師さんに当時の状況を聞いたわ。あなたがいなかったら、斉子はもう…」

愛南はこの場面にどう対応すべきか分からず、ただ「大したことではありませんよ。」と言った。

井上斉子の父親である井上は彼女の戸惑いを察し、急いで言った。「栗原お嬢様、うちの井上家はあなたに命の恩があります。今後何かあれば、遠慮なく言ってください。」

愛南は断った。「井上さん、お気遣いなく。私はただほんの些細なことをしただけです。」

彼女は井上斉子を見た。「手術は終わったのですか?」

「はい、これからしばらくリハビリが必要です。恩人さん、私は今リハビリ棟に入院していますが、時間があれば見舞いに来てくれますか?」

「いいですよ。」

井上斉子は長時間外にいるのはよくないので、二人はLINEを交換して別れた。

井上奥様が井上斉子を押して病室に戻りながら言った。「この栗原お嬢様は、目が澄んでいて、本当に良い人そうね…ねえ、あなた、話を聞いてるの?何考えてるの?」

井上は我に返って「ああ、ただこちらの栗原お嬢様をどこかで見たことがあるような気がして…」

「誰に見覚えがあるって?」

突然、病室から井上市川の声が聞こえた。三人はそこで初めて、井上市川が見知らぬ男性を連れてソファーに座っているのに気づいた。

その見知らぬ男性は三人を見るや否や立ち上がって挨拶した。「井上さん、井上奥様、井上お嬢様。」

井上は少し不快そうな表情を見せ、息子が人を連れてきて娘の邪魔をしたと感じた。

井上斉子も他人に会いたくなかった。

皆が少し拒絶的な態度を示している時、井上市川が口を開いた。「こちらは栗原お嬢様の婚約者の森川辰さんです。斉子の見舞いに来てくれました。」