横にいた森川おばあ様は何人かの会話を聞いて、興味深そうに尋ねた。「どちらの井上家?」
紀田亮は無意識に森川北翔を一瞥し、何も言わなかった。
森川北翔は答えた。「京都の井上家です。」
この四文字を聞いて、森川おばあ様の表情が少し変わった。
栗原愛南は敏感に、部屋の雰囲気が少し重くなったことに気づいた。
彼女は桃色の瞳で森川北翔をさっと見て、試すように紀田を見た。
紀田は彼女に目配せをして、余計なことを言わないように示した。
このとき、看護助手が朝食を持ってきて、テーブルに並べた。栗原愛南は森川おばあ様を支えてテーブルに座らせた。
三人はテーブルを囲んだ。普段は食事中に話をしないのが常だった。
しかし今日は、森川おばあ様がお粥を半分ほど飲んだ後、箸を置いて言った。「孫息子よ、井上家とは協力しない方がいいのではないの?」