第132章 旧友

栗原愛南が会社で書類を片付けた後、もう11時になっていた。竹歳明は帝宮ホテルで接待があり、二人はそのまま一緒に向かうことにした。

地下駐車場。

竹歳明は運転席のドアを掴んで、不安そうに栗原愛南を見た。「社長、本当に運転するんですか?」

栗原愛南は眉を上げた。「ダメ?」

竹歳明は「ダメ」なんて言える訳がなかった。

彼は非常に悩みながら助手席に向かい、そして生きる気力を失ったように安全ベルトを締めた。

栗原愛南は新鮮な気持ちで運転席に座り、車を始動させた。

スポーツカーの激しいエンジン音が地下駐車場に響き渡り、竹歳明は見るに耐えず目を閉じた。

そして、車が激しく揺れるのを感じ、そして……ゆっくりと走り出した。

彼は自分の顔が見えないように座席に埋もれたかった。

恥ずかしい!

本当に恥ずかしい!

誰がスポーツカーを時速30キロで運転するんだ?

彼は黙って真剣に運転している栗原愛南の方を向いて言った。「社長、急いでないんですか?」

「急いでないわよ。」

栗原愛南はゆっくりと答えた。「誕生日パーティーは12時からだし、ここから帝宮ホテルまで5キロしかないわ。1時間あれば十分よ。」

「……」

竹歳明は口角を引きつらせた。「社長、あなたの運転が……遅すぎると思いませんか?」

栗原愛南は真剣に前方を見つめた。「歩くよりずっと速いわ。高速道路じゃないし、それに私は鉄不足だから、普段から安全に気をつけないといけないの。万が一事故になったらどうするの?」

「……」

竹歳明は顔を覆った。周りの車が猛スピードで通り過ぎていき、好奇心に満ちた視線を感じ、穴があったら入りたいくらいだった。

彼のスポーツカーの尊厳が、こうして道中失われていった!

ようやく車は帝宮ホテルの駐車場に到着し、栗原愛南は運転席から降りた。「久しぶりの運転だったけど、今回の体験は本当に良かったわ。」

振り返ると竹歳明が降りていないのを見て、助手席側に回ってドアを開けた。「竹歳社長、降りないの?」

竹歳明は口角を引きつらせながら降り、すぐに栗原愛南が投げてよこした鍵を受け取った。「お客様との約束が11時半なので、先に行きます。」

彼は急いで階段を上がった。

栗原愛南はエレベーターホールに向かい、のんびりとエレベーターを待った。

突然、誰かが声をかけた。「栗原愛南?」