栗原愛南は栗原奥様の実家が京都にあることしか知らなかったが、海浜市に来てからずっと、京都とは連絡を取ったことがなかった。
京都の方からも、実家の人が彼女を訪ねてきたことは一度もなかった。
しかし栗原奥様が前回姿を現したときには、井上家をあんなに丁重に扱わせた……
今回も藤原美里に何を言ったのか分からないが、彼女の態度を一変させた。栗原愛南は本当に、栗原奥様を育てた家がどんな家なのか知りたくなった。
森川おばあ様は首を振った。「分からないわ。あの方の出身はどこなの?」
藤原美里は笑って言った。「彼女は具体的な経歴は言わなかったわ。でも、京都のいくつかの名門とも知り合いだって言ってたわ。辰に人脈を紹介できるって。私たち森川家は北翔のせいで、京都との繋がりが薄いでしょう。もし辰が京都の市場を開拓できたら、きっと森川家をより高く遠くへと導けるはずよ。そうでしょう、おばあ様?」
栗原愛南はやっと、藤原美里が株式を要求しなくても栗原郁子を迎え入れようとする理由が分かった。
京都の名門のほとんどは権力と財力を持っている。
かつて森川家はそういった人々とつながりを持とうとして、森川北翔の両親の縁談を進めたのだが、残念ながらその後この縁談は市場を開拓できなかっただけでなく、森川家を京都側の目の上のたんこぶにしてしまった。
今、森川辰がこの道を切り開けば、森川グループでの地位は間違いなく上がるだろう!
もし彼が森川家に十分な利益をもたらすことができれば、たとえ株式で不利な立場にあっても、森川北翔に取って代わって次期CEOになれるかもしれない!
結局のところ、藤原美里が栗原郁子を受け入れるのは、利益のためだった。
そして先ほどの数言は、藤原美里とおばあ様が行った取引だった。
おばあ様が栗原郁子の入籍を阻止しない代わりに、藤原美里は5パーセントの株式を要求しない。
森川おばあ様は彼女が立ち去ろうとするのを見て、我慢できずに一言忠告した。「利益だけで結びついても、結局は心からの信頼ほど頼りにならないわ。この婚約については、やはり辰に聞いてみるべきよ。」