第146章 森川奥様が来た

栗原奥様は少し驚いた。

  栗原愛南が結婚証明書を見せようとする意図がわからなかった。

  しかし、彼女は栗原愛南に従って隣の休憩室に向かった。

  栗原愛南はドレス姿で、手にはスマートフォンだけを持ち、バッグと森川おばあ様の荷物は隣の部屋に置いてあった。

  彼女は今日栗原奥様が来ることを知っており、心配させたくなかった。

  これまでの経験から、自分が何を言っても信じてもらえないことを知っていたので、思い切って結婚証明書を持ってきたのは、彼女を心配する栗原奥様の気を少しでも楽にさせるためだった。

  二人が休憩室に向かおうとしたとき、入り口の方で突然騒がしくなった。

  栗原愛南と栗原奥様は思わず振り向いて見ると、森川北翔が到着したところだった。彼はタキシード姿で、まるで月を取り巻く星々のように堂々と入場し、真っ直ぐに森川おばあ様の方へ向かった。

  周りで祝福の挨拶をしていた人々が気を利かせて道を開け、森川北翔はおばあ様の前に立った。

  森川おばあ様は満面の笑みで、彼に手を差し伸べた。

  しかし森川北翔は前に進まず、ただ深々と一礼をして、真剣な様子で言った。「おばあ様、お誕生日おめでとうございます。健康で長寿でありますように」

  他の人々のように延々と祝辞を述べるのではなく、簡潔な二つの言葉で、最も誠実な祝福を表現した。

  森川おばあ様の目が少し潤んだ。すぐに彼に手を振って言った。「このバカ孫、そんなに堅苦しくする必要はないわよ。あなたが幸せに暮らし、孫嫁とラブラブで白髪までいられれば、それが私の人生で一番大切なことなのよ」

  森川北翔の表情は硬かったが、栗原愛南には、彼が心の中の感動を抑えているのが目に見えた。彼は掠れた声で言った。「おばあ様、ご安心ください。そうします」

  「そう、そう!」森川おばあ様の笑顔は、今夜一番の心からのものだった。

  孫嫁の話が出たので、周りの人が一歩前に出て、笑顔で言った。「おばあ様と森川様のお話を伺うと、今夜は森川奥様がお披露目されるのでしょうか?」

  この言葉に、森川北翔の視線は反射的に宴会場内で栗原愛南を探した。

  しかし、この時栗原愛南と栗原奥様はすでに角を曲がっていたので、彼は人を見つけられず、視線を戻して、話した人に頷いた。