第298章

紀田友太郎が尋ねた。「甥っ子よ、今日は会社に何をしに来たんだ?」

  栗原井池はにこにこしながら、特に何も言わずにこう言った。「ただぶらっと来ただけです。紀田叔父さん、新エネルギー研究開発部に行ってもいいですか?」

  紀田友太郎はこの言葉を聞いて、すぐに何かを思い出した。「杏結に会いに来たのか?」

  この遠い親戚の姪については、紀田友太郎ももちろん印象があった。

  特に目立つ外見だけでなく、能力も際立っていて、二房の若い世代の中で唯一紀田グループに採用された人物だった。

  彼はまだ、紀田グループが栗原家と縁組みをしようとして、栗原井池に家の何人かの女の子を紹介したことを覚えていた。その中には二房の紀田杏結もいた。

  しかし後に二房からの使者が来て、成立しなかったと言った。

  紀田友太郎も気にしていなかった。自分の実の娘と栗原井池でさえ互いに気に入らなかったのだから、結婚の話は縁次第で、急ぐ必要はないと思っていた。

  栗原井池は咳を一つして、「はい、彼女と少し話があるんです」と言った。

  「いいよ、一緒に行こう」

  「ありがとうございます、紀田叔父さん!」

  二人は話しながらエレベーターホールまで歩いた。

  エレベーターが開いた。

  栗原井池と紀田友太郎は社長専用エレベーターに乗り、直接研究開発部に向かったが、栗原愛南と紀田杏結の姿は見えなかった。

  栗原井池が辺りを見回している間、紀田友太郎は直接スタッフに尋ねた。「杏結はどこだ?井池が彼女に会いに来たぞ!」

  「さっき紀田社長に解雇されました!会社のプロジェクト投資を自分の友達の会社に流用して、今は成果を出せないと言われて……」

  紀田友太郎は驚いた。「解雇?下谷部長は?彼を呼んで、何が起こったのか確認しろ!」

  そのスタッフの顔には即座に困惑の色が浮かんだ。「えーと、下谷部長も解雇されました。紀田社長は、彼が紀田杏結と一味だと言っていました」

  紀田友太郎:???

  紀田友太郎は戸惑いながら栗原井池の方を向いた。まだ少し呆然としていた。「これは……」

  栗原井池は眉をひそめた。まさか遅すぎたとは!

  見ろ、彼がいないと駄目だ。これじゃあ解雇されてしまうじゃないか!