人々が一斉に振り向くと、森川家の結納品が次々と運び込まれていくのが見えた。
十数人のボディーガードが、それぞれ箱を持って入ってきた。
その箱の中身が人々の前に披露された。高価な宝石や装飾品、あるいは京都では滅多に手に入らない店舗や不動産の権利書などだった。
どの結納品も見る者の目を釘付けにした。
名門貴族たちでさえ、森川家の豪勢な出費に感嘆せずにはいられなかった。
人々は羨望の眼差しで彼らを見つめ、首を伸ばして後ろを見た。この謎めいた森川氏の姿を一目見ようとしているようだった。
長い列をなす結納品の後ろには、スーツを着た男性が続いていた。
男は背が高く、爽やかなイケメンで、少し生意気な笑みを浮かべていた……
「あれが森川さんですか?とても凛々しいですね!」
「なかなかのルックスですね〜」
「でも、噂で聞いていたのとは少し違う気がします……」
周りの人々の噂話を聞いて、栗原愛南は思わず口元を歪めた。
来たのは森川北翔ではなく、紀田亮だった!
あの男はこんな大がかりな演出をしておきながら、本人は姿を見せないのか?
彼女は口を尖らせた。
その時、紀田亮は栗原叔父さんの前に来て、丁重に頭を下げながら話し始めた。「叔父様、弊社の社長は非常に重要な用事があり、出席できかねます。そのため、私が代わりに森川家と栗原家の結納品をお持ちしました。」
栗原叔父さんは栗原愛南を一瞥した。
彼はもちろん、森川北翔のその「非常に重要な用事」が何なのか知っていた。栗原愛南の運転手をしているのだ!
彼は口元を歪めながらも何も言わず、ただゆっくりと「ああ、森川北翔の心遣いに感謝する」と言った。
「栗原家のお嬢様を娶るのですから、それなりの誠意を示さねばなりません!」
紀田亮は取り入るように笑いながら、栗原愛南の方を向き、眉を上げて挨拶をした。
森川北翔が栗原愛南の正体を見抜けたのなら、彼の秘書である紀田亮も当然わかっているはずだった……
栗原愛南は白眼を返した。
紀田亮はすぐに笑顔を見せた。
彼は本当に嬉しかった。
栗原愛南が亡くなった時、社長はまるで自分も一緒に逝きそうな様子だった!
奥様が生きていて本当によかった!社長も命拾いしたようなものだ!