第461章

栗原愛南は黙ってため息をつき、また森川北翔を見つめた。

森川北翔は静かに彼女を見つめながら「先に行きますか、それとも…」

栗原愛南は前方を見つめ「先に病院へ行きましょう」

「わかりました」

森川北翔は栗原井池の傍を車で通り過ぎた。

栗原井池は彼らに気付いていないかのように、ただ正門の方向を見つめていた。

バックミラー越しに、栗原愛南は彼を見つめていた。

その瞬間、時が止まったかのようだった。車が彼の傍を通り過ぎる時、栗原井池の体が微風に震えているのがはっきりと見えた。

彼女は視線を逸らした。彼を気の毒に思うのが怖かった。

森川北翔が口を開いた。「実は、彼も紀田杏結を信用していないわけではないんです…」

言葉を途中で止め、ちらりと栗原愛南を見てから、慎重に続けた。「ただ、あなたには分からないかもしれませんが、無精子症という病気は、男性にとってどういう意味を持つのか」

栗原愛南は尋ねた。「どういう意味なんですか?」

「屈辱なんです。男というのは実に単純で愚かなもので、大学時代なんか、トイレに行くときでさえ、栗原井池は僕と誰が遠くまで飛ばせるか競争したものです…」

栗原愛南「……」

なんて幼稚なの!

彼女は恐らく幼い頃の環境があまり良くなかったため精神的に早熟で、このような行為を理解できなかった。

しかし突然興味が湧いた。「誰が遠くまで飛ばせたんですか?」

森川北翔「……」

口角を引き攣らせながら、「女性はそういうことに興味を持つべきではありません」

そして口角を少し上げ、誇らしげに言った。「もちろん僕です」

栗原愛南「……」

いや…あなたこそ幼稚じゃないですか、何を誇らしげにしているんですか!

彼女は目を転がして「それで?」

森川北翔は続けた。「彼の性格はああいう感じで、派手で、優秀で、常にサークルのトップに立つ存在で、人々から尊敬されていました。見てください、こんな年になっても結婚しないのは、無精子症のことを知られたくないからです。それを見ても、彼のプライドがどれほど高いか分かるでしょう」

「誰にもこのことを知られたくなかったから、栗原家の全員にも隠していたんです。みんな彼が遊び過ぎて結婚したくないんだと思っていて…」