彼らのような名門家は、政略結婚とはいえ、とても面子を重んじる。
栗原愛南は森川北翔と婚約者同士なのだから、私的にどんなに遊んでいても、相手の面子は立てなければならない。
木村旭はそう考えながら、レストランに入った。
栗原愛南は今、不機嫌そうな森川北翔と食事をしていた。彼女は北翔の不機嫌さに全く気付いていないようだった。
今日は和牛の焼肉を食べていた。
肉が運ばれてくると、森川北翔は黙って彼女のために焼き始めた。
栗原愛南はようやく何かに気付いたようで、おそるおそる尋ねた。「少し機嫌が悪いの?」
森川北翔は肉を焼く手を少し止め、心の中で期待が膨らんだ。
彼女が聞いてきたのだから、正直に話そう……
そう思った矢先、栗原愛南が口を開いた。「森川グループが京都に移転したばかりで、確かに忙しいでしょう。疲れているの?無理して私の運転手をしなくてもいいわ。家に帰って企業の経営に専念したら?」