彼らのような名門家は、政略結婚とはいえ、とても面子を重んじる。
栗原愛南は森川北翔と婚約者同士なのだから、私的にどんなに遊んでいても、相手の面子は立てなければならない。
木村旭はそう考えながら、レストランに入った。
栗原愛南は今、不機嫌そうな森川北翔と食事をしていた。彼女は北翔の不機嫌さに全く気付いていないようだった。
今日は和牛の焼肉を食べていた。
肉が運ばれてくると、森川北翔は黙って彼女のために焼き始めた。
栗原愛南はようやく何かに気付いたようで、おそるおそる尋ねた。「少し機嫌が悪いの?」
森川北翔は肉を焼く手を少し止め、心の中で期待が膨らんだ。
彼女が聞いてきたのだから、正直に話そう……
そう思った矢先、栗原愛南が口を開いた。「森川グループが京都に移転したばかりで、確かに忙しいでしょう。疲れているの?無理して私の運転手をしなくてもいいわ。家に帰って企業の経営に専念したら?」
森川北翔:「……」
この女は何てロマンスがわからないんだ!
彼女の前で疲れているなんて一度も言ったことないのに!
森川北翔は呼吸も苦しくなり、この女に気絶させられそうだった!
彼は顔を横に向け、彼女を無視した。
栗原愛南がもう少し何か言おうとした時、隣にいた木村旭が突然また現れた。「あのさ、愛南、森川家がもうすぐパーティーを開くの知ってる?」
栗原愛南は頷いた。「知ってるわ」
木村旭は咳払いをし、イケメンを横目で見た。「じゃあ、森川家のパーティーがどんな名目で開かれるか知ってる?」
栗原愛南は少し戸惑った。「どんな名目?」
木村旭は何も言わず、また得意げにイケメンを横目で見た。
このタイミングで森川家の話を出せば、そのイケメンが不機嫌になると思っていたのに、意外にもその人の目が突然熱を帯び、自分を見る目つきにも焦りが混じっていた。
森川北翔が焦らないわけがない!
自分は森川家が適当にパーティーを開くと言っただけで、自分の誕生日だとは言えなかったが、他人から知ることはできるはずだ!その他人が今目の前にいるじゃないか!
彼は唇を曲げて笑った。
木村旭:?
このイケメン、厚かましすぎじゃないか。栗原愛南が森川家と政略結婚することを知っているのに、自分が森川家の話をしているのに、まだここで笑っている!