第552章

森川北翔は栗原愛南の様子がおかしいことに気づき、すぐに一歩前に出て、声を潜めて尋ねた。「どうした?」

彼は栗原愛南の手からスマートフォンを取り上げた。

栗原愛南は顎を引き締めたまま、避けようとはしなかった。

森川北翔は動画を見た後、眉をひそめ、薄い唇を固く結び、拳を強く握りしめた。そして栗原愛南の方を向いて言った。「斎藤真司を選べ」

彼は栗原愛南に後悔してほしくなかった。

それに、今日斎藤真司を選んでも、すぐに結婚式というわけではない。まずは状況を落ち着かせることが先決だ。

栗原愛南はその言葉を聞いて、森川北翔を一瞥した。

彼女は尋ねた。「それで?」

森川北翔は口を開いた。「結婚式の前に、全力でお前の母親を救い出す。救い出せなかったら、お前は彼と結婚すればいい。救い出せたら、俺と一緒に行こう」

栗原愛南はその心のこもった言葉を聞いて、胸が温かくなった。

彼女は深く息を吸い、森川北翔の顔に覚悟の表情が浮かんでいるのを見た。

彼女は森川北翔が何らかの隠れた勢力を持っていることを常に知っていたが、具体的にどんな勢力かは分からなかった。今の彼の様子を見ると、その勢力を明かしてでも母親を救おうとしているようだった……

そしてその勢力を明かすことは、彼にとって何か良くない結果をもたらすかもしれない。

栗原愛南は突然口を開いた。「必要ないわ」

森川北翔は一瞬固まった。

栗原愛南はすでに斎藤お爺さんの方を向いていた。「私は森川北翔を選びます」

森川北翔は呆然とした。

斎藤お爺さんも困惑した様子で「何だって?」

栗原愛南は言った。「森川北翔を選びますと言いました」

斎藤お爺さんと斎藤真司は二人とも信じられない様子で彼女を見つめ、南條真美さえも少し驚いたような様子で、彼女がこれほど決然と決めるとは思っていなかったようだった。

斎藤お爺さんは眉をひそめ、深いため息をついた。「わかった」

栗原愛南は彼に頷き、何か言おうとしたが、斎藤お爺さんはすでに出口を指差していた。「明日、斎藤真司と南條真美の婚約式を行う。南條さん、もう協力関係の必要はない。お帰りください」

栗原愛南は彼が話し合いに応じる様子がないのを見て、もう何を言っても無駄だと悟り、すぐに森川北翔の手を引いて、立ち去ろうとした。

森川北翔は足を止めた。