森川北翔はすぐに後を追い、見覚えのある顔を目にした。
その人物は白衣を着て、栗原愛南を驚いた表情で見つめており、金縁の眼鏡をかけていた。
その顔を、森川北翔は以前海浜市で見かけたことがあった。
一度、栗原愛南が誤解から警察署に行った際、貧血状態で病院に搬送されたことがあった。
病院で、この栗原牧夫という医師が診察したのだ。
栗原牧夫は彼女が鉄欠乏性貧血症で、一度貧血で倒れると、ショック状態になり非常に危険だと言った。
しかし、彼は海浜市の医師のはずなのに、なぜここにいるのだろう?
そして、栗原愛南はなぜここを訪ねてきたのだろう?
診察室には他の患者もおり、その時栗原愛南を眉をひそめて見つめていた。「あなた誰?何の用?診察は順番待ちですよ!」
栗原愛南はその人物を完全に無視し、栗原牧夫が口を開いた。「申し訳ありません。この方とは少し私的な話があるので...」
その患者はすぐに怒り出した。「なぜですか?先生、私は苦労して順番を待っていたのに、こんな扱いを受けるなんて?病院に苦情を入れますよ。私は...」
後の言葉が終わらないうちに、一束の札が彼の目の前に現れた。
医師は少し戸惑った様子を見せた。
森川北翔は前に出て、その札束を彼の手に押し込んだ。「少しの間、外で待っていただけませんか?」
彼の話し方は非常に丁寧だったが、断れない威圧感を帯びていた。
その患者は黙って口を閉じ、お金を持って部屋を出て行った。
診察室はようやく静かになった。
森川北翔は栗原愛南を見て、再び栗原牧夫を見た後、診察室のドアを閉めようとしたが、ドアの鍵が栗原愛南の一蹴りで壊れており、まったく閉まらないことに気づいた。
ふむ。
この一撃を見ると、先ほどの栗原愛南の心情がいかに荒れていたかが分かる。まるで人を殺しそうな勢いだった。
森川北翔はそう考えながら、自らドア口に寄りかかり、ドアを塞いだ。
そして二人の方を振り返った。
栗原愛南は栗原牧夫を見つめ、栗原牧夫はため息をついた。「愛南、私を訪ねてきた理由は何かあるのかい?」
「もう演技はやめて。私知ってるわ。ずっとあなたが私にメッセージを送っていたのね。」
栗原愛南は容赦なくその覆いを剥ぎ取った。